明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2021-01-01から1年間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」心篇 10

223.『心』もうひとつの謎――短篇はいつ長篇になったのか ところで御嬢さんはどこで生れた人であったか。父親が鳥取、母親は市ヶ谷の人で、自分は都会と田舎の「合の子」であるという。 それはある軍人の家族、というよりも寧ろ遺族、の住んでいる家でした。…

漱石「最後の挨拶」心篇 9

222.『心』私のふるさと――漱石作品で最も探しにくい土地 『心』の主な舞台は、前項で考察した小石川区にある先生の下宿と先生の家であるが、もう1ヶ所、(鎌倉の海水浴場を除けば)私の郷里の、ある地方都市が挙げられる。 その市の場所は結局最後まで分か…

漱石「最後の挨拶」心篇 8

221.『心』小石川の台地――先生の下宿は上富坂町 ではその先生(とK)が束の間棲み暮らした、奥さんの家というのはどこにあったのか。本ブログ第5項の年表で想定したように、漱石「最後の挨拶」心篇 5 - 明石吟平の漱石ブログ 時は明治30年頃である。故…

漱石「最後の挨拶」心篇 7

220.『心』最大の謎(承前)――素人下宿じゃいけませんか 漱石が間違っていると仮定して、ここはやはり、先生は起きて来た奥さんに、縁側の方から自室に来るように請願したのち、手にランプを持ったまま自分は玄関の間から、下女が起き出して来ないか確認して…

漱石「最後の挨拶」心篇 6

219.『心』最大の謎――禁断の茶の間 本ブログでは『心』は『先生と私』(全36回)・『両親と私』(全18回)・『先生と遺書』(全56回)の3篇からなるものとし、連載回の表示のみ旧来の菊判の昭和版岩波書店『漱石全集』(第6巻)を使用する。本文の引…

漱石「最後の挨拶」心篇 5

218.『心』先生の年表――先生の自裁は38歳 三四郎以来漱石の主人公の大学入学年次は、23歳と明示もされ、そうでない場合も23歳と想定して自然であった。さきほど引用した志賀直哉も「大学へ入る前の年だから二十三くらいだろうが」(「稲村雑談」)と…

漱石「最後の挨拶」心篇 4

217.『心』志賀直哉の場合(承前)――神経戦ガチンコ勝負 折角ここまで書いて来たのだから、オマケとして志賀直哉が漱石のことを語った文章を年代順に掲げてみる。Ⅰ 夏目先生のものには先生の「我(が)」或いは「道念」というようなものが気持よく滲み出してい…

漱石「最後の挨拶」心篇 3

216.『心』志賀直哉の場合――時任謙作の呪い 話は脇道へ逸れるが、朝日の新聞小説キャンセル事件について、志賀直哉自身が「創作餘談」で触れているのでそれを紹介したい。そのついでに志賀直哉の文章をいくつか見てみることにする。漱石の人となりを知るのに…

漱石「最後の挨拶」心篇 2

215.『心』消印の秘密(承前)――短篇がいつのまにか長篇へ ここで当然にも読者は次の疑問にぶち当たる。第1作が先生の死(自死)であるというからには、2作目3作目はどんなものが予定されていたというのか。登場人物がリセットされるにしても、『心』とい…

漱石「最後の挨拶」心篇 1

214.『心』消印の秘密――起筆日は大正3年4月15日 前作『行人/塵労』全52回の連載が終って半年、『心――先生の遺書』全110回は大正3年4月20日から8月11日まで連載された。起筆は4月15日か16日、擱筆は8月1日であろう。延べて109日か…

漱石「最後の挨拶」行人篇 46

213.『行人』 ブログ総目次 総目次行人篇1 168.『友達』(1)――汚な作りの高麗屋漱石「最後の挨拶」行人篇 1 - 明石吟平の漱石ブログ 行人篇2 169.『友達』(2)――原初に失敗ありき漱石「最後の挨拶」行人篇 2 - 明石吟平の漱石ブログ 行人篇3 170.『…

漱石「最後の挨拶」行人篇 45

212.『行人』目次(4)――『塵労』 『塵労』 (全52回)第1章 お直の来訪(明治45年3月17日)(または『帰ってから』第9章) 二郎・お直・下宿の下女 第1回 陰刻な冬は彼岸の風に吹き払われた~「風呂かい」「三沢だろう」「いいえ女の方です」~…

漱石「最後の挨拶」行人篇 44

211.『行人』目次(3)――『帰ってから』 『帰ってから』 (全38回)第1章 自分たちはかくして東京へ帰ったのである(『兄』第10章を兼ねる) 二郎・一郎・直・母・岡田・(お兼さん・佐野) 第1回 旅の終わりⅠ 和歌の浦から大阪へ~岡田に見送られて…

漱石「最後の挨拶」行人篇 43

210.『行人』目次(2)――『兄』 『兄』 (全44回)第1章 到着、お出迎え 二郎・一郎・直・母・岡田・お兼さん・(月夜に大石の持上げ競をやる裸男) 第1回 再び梅田の停車場へ「何うです。二郎さん喫驚したでしょう」(8/9水)第2回 大阪の宿と到着の…

漱石「最後の挨拶」行人篇 42

209.『行人』目次(1)――『友達』 登場人物の多さ(漱石作品にしては)。その登場人物の分かりにくい主張。中でも分かりにくい一郎の人生哲学。それに輪をかけて難解な三沢や二郎の恋愛観。やや込み入った構成。病気中断後に追加された『塵労』。 謎の多い…

漱石「最後の挨拶」行人篇 41

208.『塵労』1日1回(10)――Hさんの手紙(つづき) 第10章 鎌倉(6月29日)第46回 鎌倉1 裏後出しジャンケンとは~Hさんが一郎を敬愛する理由~凡庸な人間に対し頭を下げて涙を流すほど正しい人(6/29土)第47回 別荘から高い崖の松を見上げ…

漱石「最後の挨拶」行人篇 40

207.『塵労』1日1回(9)――Hさんの手紙 第7章 沼津(6月29日・6月22日~23日)(以下人物は一郎とHさんのみ)第28回 鎌倉着 手紙の書き出し~旅行に出て1週間、だんだん手紙を書く必要性を感じるようになった~一緒に旅行する相手のことを…

漱石「最後の挨拶」行人篇 39

206.『塵労』1日1回(8)――全旅程表 《移動・宿泊行程》(=は旧国鉄の幹線 -はそれ以外の鉄路を示す)1日目 新橋=大船(逗子鎌倉へは行かずそのまま東海道線)=国府津=(御殿場線)=三島=沼津。 沼津2泊。 3日目 沼津=三島-修善寺。 修善寺2…

漱石「最後の挨拶」行人篇 38

205.『塵労』1日1回(7)――漱石と鎌倉 前項で「『門』『彼岸過迄』『行人』『心』と4作続けて」と書いたが、『門』の鎌倉は主人公の参禅のための別格として、『彼岸過迄』からの3部作では、鎌倉は避暑地、旅行先の1つ、海水浴場として、晴れがましくも…

漱石「最後の挨拶」行人篇 37

204.『塵労』1日1回(6)――滞る日々(つづき) 三沢も相変わらず負けていない。 ①自分は大阪の岡田から受取った手紙の中に、相応な位地が彼地にあるから来ないかという勧誘があったので、ことによったら今の事務所を飛び出そうかと考えていた。「つい此間…

漱石「最後の挨拶」行人篇 36

203.『塵労』1日1回(5)――滞る日々 第4章 雅楽所での出来事(4月~5月・6月2日) 二郎・三沢・(雅楽所に来ていた知人・三沢の知人たち・三沢の婚約者・その兄・婚約者の親友) 第16回 1週間経ってもHさんからは何の通知もない~三沢やってきて…

漱石「最後の挨拶」行人篇 35

202.『塵労』1日1回(4)――三沢一郎お直の三角関係 第3章 三沢と一緒にHさんを訪ねる(3月24日) 二郎・三沢・三沢の母・Hさん・(兄) 第13回 三沢の母~三沢の結婚決まる~三沢はあの出帰りの娘さんの油絵(肖像画)を描いていた第14回 三沢…

漱石「最後の挨拶」行人篇 34

201.『塵労』1日1回(3)――父の来訪 第2章 父の来訪と兄のいない家(明治45年3月18日~23日) 二郎・父・母・お直・お重・芳江・(兄) 第6回 嫂の亡霊~「あの落付、あの品位、あの寡黙、誰が評しても彼女はしっかりし過ぎたものに違いなかった…

漱石「最後の挨拶」行人篇 33

200.『塵労』1日1回(2)――嫂の来訪(つづき) 第4回 珍しく嫂の方から兄との夫婦仲が悪くなる一方であることを打ち明けられる「二郎さん御迷惑でしたろう斯んな厭な話を聞かせて。妾今迄誰にもした事はないのよ、斯んな事。今日自分の宅へ行ってさえ黙…

漱石「最後の挨拶」行人篇 32

199.『塵労』1日1回(1)――嫂の来訪 『塵労』をまとまった1つの小説と見ると、ボリューム的には『坊っちゃん』『須永の話+松本の話(彼岸過迄)』『先生の遺書(心)』にほぼ等しい。漱石としては言いたいことの一番言いやすい枚数ではないか。しかし肝…

漱石「最後の挨拶」行人篇 31

198.『帰ってから』1日1回(9)――宴のあと(つづき) 第8章 長野家の冬(1月~3月) 二郎・母・お重・三沢・(一郎・お直・父) 第37回 下宿Ⅰ お貞さんが去ると共に冬も去った~二郎の下宿にはお重が時々やって来た第38回 下宿Ⅱ 母も1、2遍来た…

漱石「最後の挨拶」行人篇 30

197.『帰ってから』1日1回(8)――宴のあと 第7章 お貞さんの結婚(12月) 二郎・一郎・お直・芳江・父・母・お重・岡田・佐野・三沢 第33回 結婚Ⅰ 三沢との会話~異様なおのろけ~三沢は二郎の結婚相手を探そうとする~岡田と佐野の上京~久し振り家…

漱石「最後の挨拶」行人篇 29

196.『帰ってから』1日1回(7)――三沢の不思議な恋 三沢の不可解な恋愛については、前著でも触れたが、いくら考えても分からない。結局、「病気の原因は病気である」という無意味な一句にたどり着くしかないのであるが、鏡子の『漱石の思い出』にはいきな…

漱石「最後の挨拶」行人篇 28

195.『帰ってから』1日1回(6)――長野家の秋 第5章 長野家の秋(11月) 二郎・一郎・お直・母・お重・三沢 第20回 兄と自分Ⅰ 二郎は結婚前の直を知っていた~母もすすめる二郎の独立問題「二郎、学者ってものは皆なあんな偏屈なものかね」第21回 …

漱石「最後の挨拶」行人篇 27

194.『帰ってから』1日1回(5)――女景清「ごめんよ」事件 ここで一部重複するが、前著(『明暗』に向かって)で女景清についてまとめた項を再録したい。女景清のベーシックな問題点が整理されると思う。41.女景清「ごめんよ」事件 『明暗』はユニーク…