明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」門篇 1

87.『門』平和な小説(1)――不滅の名文 大西美智子の『巨人と六十五年』(2017年光文社刊)に、漱石の作品で(今現在では)何が好きですかと、著者が高齢の夫に聞く箇所がある。『それから』ですか『門』ですかと聞く妻に対して、やまいの床に臥す大西巨人…

漱石「最後の挨拶」それから篇 23

86.『それから』結婚話を断ってもいけない ~『明暗』に向かって(第11項) 《漱石「最後の挨拶」番外篇》 (前項よりつづく) 11.結婚話を断ってもいけない『行人』の二郎は三沢に呼び出され、歌舞伎座ならぬ雅楽所で三沢の許嫁の親友という女を紹介される…

漱石「最後の挨拶」それから篇 22

85.『それから』見合いを断ってはいけない ~『明暗』に向かって(第10項) 《漱石「最後の挨拶」番外篇》 『それから』篇の終わりにあたって、内容は一部重複するが、再び前著(『明暗』に向かって)からの引用を以って補足としたい。引用文冒頭のお見合いと…

漱石「最後の挨拶」それから篇 21

84.『それから』告白がもたらす平和と嵐(2)――もう尻に敷かれている とまれ告白はなされたのであるから、賽は投げられたのであるから、もう他からとやかく言うこともないのである。 しかしこの期に及んでもいろいろ考えさせられるのが漱石の小説であろう。…

漱石「最後の挨拶」それから篇 20

83.『それから』告白がもたらす平和と嵐(1)――繰り返し奏されるトリオ さて『それから』全110回のカタログを作成してみると、改めて第14章(全11回)が最も長く、ハイライトの章であることが再確認される。漱石作品最初で最後の「直接告白」の含ま…

漱石「最後の挨拶」それから篇 19

82.『それから』目次(2)―― 第10章~第17章(ドラフト版) (前項よりつづき) 第10章 三千代2度目の来訪 6月(門野・三千代)(父・平岡)1回 代助の不安はどこから来るか2回 午睡の最中に三千代が来る3回 人の細君を待ち合わせるには理論が必…

漱石「最後の挨拶」それから篇 18

81.『それから』目次(1)―― 第1章~第9章(ドラフト版) 『それから』は漱石によって1から17に分割されているが、小論ではそれをそのまま1章から17章とし、その簡単な概要を新聞掲載回と共に掲げることにする。また章ごとに代助以外の登場人物を(…

漱石「最後の挨拶」それから篇 17

80.『それから』ミステリツアー(2)――二つの誤記事件 《漱石「最後の挨拶」番外篇》20.『それから』ミステリツアー(承前) 以上のように『明暗』と『それから』を比べてみて、固有名詞が書かれようが書かれまいが、漱石の場合はその小説世界の現実感に…

漱石「最後の挨拶」それから篇 16

79.『それから』ミステリツアー(1)―― 四つの橋 《漱石「最後の挨拶」番外篇》『それから』については前著(『明暗』に向かって)でもいくつか述べたことがある。というのは『それから』も『明暗』も、主人公たちが牛込から小石川、神田界隈まで、似たよう…

漱石「最後の挨拶」それから篇 15

78.『それから』父と子――金がなければ役立たず 先に『それから』では父が(例外的に)活動すると述べたが、漱石にとって人生では苦々しい存在でしかなかった父親が、作品でどのように描かれたか、例によって順に見てみよう。『猫』 吾輩の父親は当然ながら不…

漱石「最後の挨拶」それから篇 14

77.『それから』なぜ年次を間違えるのか(3)――『門』の年表(つづき) 『門』年表(つづき)明治42年(東京2)宗助30歳 小六20歳10月31日(日)物語の始まり宗助御米の日曜日小六の来訪11月回想/宗助のこれまで安之助のカツオ船石油発動機宗…

漱石「最後の挨拶」それから篇 13

76.『それから』なぜ年次を間違えるのか(2)――『門』の年表 誤 小六が高等学校の二年生になった(『門』4ノ7回末尾) 正 小六が高等学校の三年生になった(『門』4ノ7回末尾改) これは漱石の単純な書き間違いであろうか。それとも(文選工なり植字工…

漱石「最後の挨拶」それから篇 12

75.『それから』なぜ年次を間違えるのか(1)――『門』小六の学年 『門』の年表は門篇で考察すればよいとは思う。しかし本項の始めに『それから』の年表を作成して、そこに1年の錯誤があったときにすぐ気づけばよかったのであるが、そもそも年表の問題につ…

漱石「最後の挨拶」それから篇 11

74.『それから』愛は3回語られる(6)――女と金と死が必ず語られる(つづき) (前項よりつづき) 『門』 ①宗助の弟2人(早世) ②妹(夭折)(宗助10歳頃) ③母(宗助20歳頃) ④父(宗助26歳頃) ⑤御米の児3人(*) ⑥佐伯の叔父 ⑦伊藤博文 ⑧弁慶橋の…

漱石「最後の挨拶」それから篇 10

73.『それから』愛は3回語られる(5)――女と金と死が必ず語られる 漱石作品には女と金の話が必ず出て来るが、死もまた必ず語られる。ここで漱石作品に現れる死者の数を順に数えてみよう。もちろん金の話と同じで、厳密にカウントするのは不可能にちかいが…

漱石「最後の挨拶」それから篇 9

72.『それから』愛は3回語られる(4)――『心』からの再出発 『行人』については先に例を挙げたが、『行人』には「塵労」という(病気による中断の後の)オマケの物語がある。結局二郎の友人三沢は婚約することになったが、三沢にとっては小説の中では3人…