425.『野分』詳細目次(2)――7章~12章
『野分』全12章全50回(つづき)
第7章 中野君の愛のヴィーナス
中野 VS. 婚約者 (明治39年11月 ある日)
1回 ヴィーナスに嫉妬する
中野君の婚約者新体詩を唄う~大勢の人の前では恥ずかしくて声が出せない~中野邸の庭にはヴィーナス像が~愛の神ヴィーナスは冷たい感じがする~ヴィーナスを愛するものは、自分を愛してはくれまい~女の批判は直覚的だが男の好尚は半ば伝説的である~男は美学に欺かれながら欺かれぬ女の判断を理解しない
2回 ヴィーナスの指輪
中野君はヴィーナス像の美を婚約者に説く~「あらいやだ。あなたは失敬ね」「だって待っててもあとをおっしゃらないですもの」~婚約者は父親から指輪を買って貰った~指輪は魔物である
3回 メリメ『ヴィーナスの殺人』
中野君婚約者にメリメをレクチャする~テニスをするのに邪魔になるのでヴィーナス像の指に指輪を掛けておいた~それを忘れたまま青年が田舎に令嬢を迎えに行く~結婚指輪は当座のものを買って間に合わせた~しかし婚礼の晩に庭のヴィーナスが寝室に上がってきて・・・
4回 中野君の語る高柳君の悲観病
神経質で自分で病気を拵える~慰めると却って皮肉を言う~失恋なの?~細君を貰ったら癒るかも知れないが元来が性分~遺伝か子供の頃何かあったのか~だって御自分で御金がとれそうなものじゃありませんか文学士だから~新潟県での~白井道也とのいきさつ~中野君の趣味は写真撮影
第8章 道也の人格論
高柳 VS. 道也 (明治39年11月 ある日)
1回 高柳君の孤独
道也の天地は人の為~高柳君の天地は己れのため~道也は人の世話・指導をする為に生れた~高柳君は人に世話され頼る為に生れた~道也は独りぼっちが苦にならぬ~高柳君は独りぼっちが苦しい~庭の梧桐も色が変わって虫喰いの1葉を除いてすべて枯れてしまった
2回 秋雨の中を外に出る
高柳君は肺結核か神経か~日の明るい朝を迎えるのが苦痛~1人ぼっちで翻訳の仕事~故里の母へ手紙を書きかける~梧桐の最後の1葉が落ちる~いたたまれず外に出る~下宿の婆さんに部屋の傘を取って来てもらう
3回 高柳君道也先生と遇う (高柳君の過去Ⅱ)
初時雨の往来を歩く~行き先は湯島天神か~岩崎の塀へ頭をぶつけて壊したい~上野の図書館帰りの道也に遇う~「じゃ坂を上って本郷の方へ行きましょう。僕はあっちへ帰るんだから」~「創作をなさればそれで君の寿命は岩崎などよりも長く伝わるのです」~「先生私の歴史を聞いて下さいますか」
4回 孤独は崇高である
先生罪悪も遺伝するものでしょうか~「あなたの生涯は過去にあるんですか未来にあるんですか。君はこれから花が咲く身ですよ」~独りぼっちは崇高なものです~「人が認めてくれるような平面ならば人も上ってくる平面です。芸者や車引に理会されるような人格なら低いにきまってます」~後世に名を残そうと力むなら、周囲と隔絶されてあるべき、その周囲から理解を得ようとしてはいけない~道也は違う、只自分の満足を得るために世のために働く
第9章 中野君の結婚披露
高柳 VS. 中野夫妻 (明治39年12月 ある日)
1回 結婚披露の園遊会
杉の葉のアーチと蜜柑の木のアーケード~高柳君を待つ新夫妻~厭でも来ると約束すると来ずにいられない男だからきっとくる~きまりのわるいのは自信がないから~自信がないのは人が馬鹿にすると思うから~「入らっしゃるなら、ここにいて上げる方がいいでしょう」
2回 夫婦を驚かせた高柳君の服装
憐れなる高柳君の服装~互いに「是は」と思う~「是は」が重なると喧嘩なしの絶交となる~塩瀬の羽織を着た客とぶつかる
3回 独りぼっちの園遊会
菊の鉢と松の鉢~林檎の大皿と蜜柑の大皿~園遊会に燕尾服を着てくる非常識な男が2人いた~舞台と楽隊と朝妻船~葉巻と紙巻の呑み比べ
4回 高柳君は独りで帰ったのだろうか
株式値上がりの話~鴨猟の話~高柳君は新夫妻に挨拶せずに帰る~「あれで一人じゃやっぱり不愉快なんだ。不愉快なら出てくればいいのになおなお引き込んでしまう。気の毒な男だ」
第10章 道也と細君生計のピンチ
道也 VS. 細君/細君VS. 兄 (明治39年12月11日火曜)
1回 足立教授の序文が貰えない
木枯らしが吹くようになった~435枚も書いた原稿が売れない~足立に序文を頼んだが断って来た~道也は筆で食うと言う~細君はこれでは生活できないと言う
2回 細君の悩み
細君と兄は同意見~執筆なんかやめて定職に就け~足立にもう一度序文を頼んでみよう~細君の胸の裡~細君の父母はもういない~可愛がってくれる筈の人はこの世に1人もいない~世の夫は皆あんなものか~ならば結婚する女はいなくなるだろう~夫は変わるか夫を変えられるか
3回 道也の留守に兄が来る
道也の兄は会社の社員~その会社の社長は中野君の親爺~細君の名は御政~弟が兄の家に寄り付かないのは変人だから~あれほど訳がわからないとまでは思わなかった~女の云う事を聞かないので困り切ります~近頃は少しどうかしているんじゃないかと思います~しきりに金持を攻撃する~そんな事をしてどこが面白い~一文にもならず人からは擯斥される~自分の損になるばかり
4回 道也を教師の道へ引き戻す策略
当人の方から雑誌や新聞をやめて教師になりたいと云う気を起させる~百円の融通期限は12月15日~返済を厳しく迫って定職に就かざるを得ないよう仕向ける~頭を下げて来た時に取って抑える~おれの云う事を聞かなければあとは構わない~「何分宜しく願います」~神田に道也の演説広告が出ていてびっくり
第11章 道也の演説会 (全6回)
道也 VS. 細君/高柳 VS.道也の演説 (明治39年12月中旬)
1回 演説会当日に兄から呼び出し
兄の家から使いが来る~すぐ来いという~道也は演説会があるので行かれない~演説会は電車事件で捕まった仲間の家族を援けるため~細君は社会主義者と間違われたらどうすると心配~間違えても正しい道なら構わない
2回 道也の演説「現代の青年に告ぐ」始まる
演説会の聴衆に高柳周作がいる~道也の演説が始まる~自己は過去と未来をつなぐものである~自己は何のためにあるのか~人間は過去のために生きるのか~それで明治の代は完成するか
3回 明治の40年は次の世代の為に在る
明治の40年は弾指の間に過ぎない~弾指の間に何が出来る~明治の代に過去はない~明治は先例のない代である~我々は過去を顧みるのではなく、未来のために生きるべきである~紅葉一葉は我々の先例になるために生きたのではない、我々を生むために生きたのである
4回 どの道を歩むか何を成し遂げたか
魂の理想像を想像できるか~西洋にそれを求めることに意味があるか~理想あるものは歩くべき道を知っている~その道はどんなに困難でも必ず行かなくてはならない~理想の大道を行き尽したか否かは、ただ後世の天下のみが知るだろう
5回 学問と金儲けは正反対の道である
学問する者の理想とは何か~学問は金に遠ざかる器械である~学者と町人とはまるで別途の人間である~それは互いに矛盾相反する存在である~物の理が分かるということと金を稼げるということは相反する特質である~学問に費やす時間と金儲けに費やす時間は共有出来ない~つまり財産と地位を有する者は物事の道理が分からないことになる
6回 道徳・人生・社会の問題は学者に聞け
報酬は労力に付随して得られる筈である~しかし現実には報酬は眼前の利害に直結して決定される~高等な労力に高等な報酬が伴なわない~金を多く得る者が高尚な努力をしたとは限らない~金の多寡で人物の価値は決まらない~金持ちは金儲けの専門家だが人事や物事の理屈は分からない~人生や社会の問題は学者に聴くしかない~金持ちはそれを理解できないところが金持ちたる所以である
第12章 道也の『人格論』を百円で買う
高柳VS. 中野/道也VS. 債権者/高柳VS. 道也 (明治39年12月16日日曜)
1回 中野君は高柳君に療養を勧める
中野君が高柳君の下宿を訪れる~医者は転地を勧める~中野君は援助を申し出るが高柳君は受けたくない~元気なときならともかく病気になって援助を受けるくらいならいっそ死んだ方がよい
2回 高柳君の傑作に百円の前渡し
机の上の書きかけの小説~中野君の提案~述作の完成と引き換えに保養の費用を負担するという取引~中野君は高柳君に百円の札束を渡す
3回 百円を懐中して道也先生を訪なう
中野君の提案は妻の発議~それじゃ奥さんによろしく~この己を出さないでぶらぶらと死んでしまうのは勿体ない~これ一つ纏めれば死んでも言訳は立つ~今の百円は他日の万金よりも貴い~転地の前に道也に暇乞いに出掛ける
4回 道也先生の原稿を百円で買う
昨日が期限の百円をどうあっても今夜中に~著述が本屋に売れるまで待っては呉れますまいか~高柳君は道也の原稿『人格論』をちょっと見せてくれと言う~告白と結末