明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

漱石「最後の挨拶」門篇 16

102.『門』泥棒事件の謎(2) ところでホームズならこの事件をどのように見るだろうか。 限りなく怪しいのは、「第一発見者」宗助である。もちろん『門』の読者であれば宗助が犯人たりえないことは考えなくても分かる。しかし坂井の立場からするとどう…

漱石「最後の挨拶」門篇 15

101.『門』泥棒事件の謎(1) 冒頭で『門』を平和な小説であると述べたが、その数少ない事件の一つに奇妙な泥棒事件なるものがある。盗られたものは金時計一つで、それも後日送り返されたという、プロの仕業としては(アマチュアの犯行としても)理解に…

漱石「最後の挨拶」門篇 14

100.『門』コントのあとは主役の失踪(3) 宗助も御米も小さな問題は探せば見つかるようであるが、小六もまた漱石ふうの大雑把なようで細かい性格は別として、一回だけ失踪事件を起こしている。 11月いっぱいで寄宿舎を引き払い、宗助夫婦の家で同居…

漱石「最後の挨拶」門篇 13

99.『門』コントのあとは主役の失踪(2) 昔話の第4章では、最後に御米の「夫よりか、あの六畳を空けて、あすこへ来ちゃ不可なくって」(4ノ14回)という提言で、物語はやっと動く気配を見せ始める。宗助は御米に遠慮があって言い出せなかったと言い…

漱石「最後の挨拶」門篇 12

98.『門』コントのあとは主役の失踪(1) 第1回第2回がショートコントだとすると、小説の本当の始まりが第3回なのだろうか。『門』第1章第3回は、何と主役宗助が日曜に独りで散歩に出た留守中の話になっている。叙述は早くも宗助を去って、御米と小…

漱石「最後の挨拶」門篇 11

97.『門』始めにコントありき 漱石もまた小説の書き出しには気を遣った人であるが、とくに朝日入社以後の多くの作品は、新聞小説を意識したのであろうか、(ブルックナー開始ではないが)漱石開始とでもいうべき、独特の雰囲気を感じさせる書き出しになっ…

漱石「最後の挨拶」門篇 10

96.『門』もうひとつの謎 前項の話は、宗助が鎌倉へ(座禅を組みに)出かける前に、小六を坂井の書生に送り込めば済んだ話ではある。漱石はわざとそうしなかったのであろうか。 どちらにせよこの話にはもうひとつ不自然な枠組みが付き纏う。これも前に述…

漱石「最後の挨拶」門篇 9

95.『門』最大の謎 先にも述べたが『門』で最も不思議なのは、宗助が自宅に小六のいる間に(御米を残したまま)鎌倉へ10日間出かけてしまったことであろう。宗助が気にしないのはいい。宗助は自分が何らかの意思を発揮して、その帰結として安井から御米…

漱石「最後の挨拶」門篇 8

94.『門』年表確定 漱石が6年と書いた、宗助と御米の二人暮した年月について、これまでの議論をまとめると、 ①京大入学年度 ・6年8ヶ月説=明治34年9月 ・5年8ヶ月説=明治35年9月(『それから』代助と同じ) ②二人の棲む場所(都市)と歳月 …

漱石「最後の挨拶」門篇 7

93.『門』もうひとつの年表 小六の学年はいいとして、漱石の月日の書き方を少しゆっくり目に解釈すると、宗助(と安井)の京大入学年度を、(明治35年でなく)明治34年であるとする年表も可能になる。それを試してみよう。傍線部分が先の年表と異なる…

漱石「最後の挨拶」門篇 6

92.『門』小六の学年詳細報告 先に『それから』の論考の中で、『門』の年表も試みに作成した。 ・第75項 なぜ年次を間違えるのか(1)――『門』小六の学年 ・第76項 なぜ年次を間違えるのか(2)――『門』の年表 どうしても気になるのが小六の学年で…

漱石「最後の挨拶」門 5

91.『門』の間取り図(完結篇) 今回だけブログタイトルの一部を「門篇」から「門」に変えている。他人の成果に直接論評を加えているような書き方をしているので、その心覚えの意味もあって変えてみた。 また小論でおもに参照引用している漱石の小説本文…

漱石「最後の挨拶」門篇 4

90.『明暗』に向かって~『門』の間取り図(つづき) [漱石「最後の挨拶」番外篇] (前項よりつづき) 13.『門』の間取り図(承前) 物語が進行して(といってもまだ何も事は起こらないが)、小六が同居する話が持ち上がる。ここで家の間取りがさら…

漱石「最後の挨拶」門篇 3

89.『明暗』に向かって~『門』の間取り図 [漱石「最後の挨拶」番外篇] 宗助と御米が東京で棲み暮らす関口台(今の目白台)あたりの崖下の家について、又々で恐縮であるが、前著(『明暗』に向かって)からの引用文を以って、その間取り図を紹介したい…

漱石「最後の挨拶」門篇 2

88.『門』平和な小説(2)――小六の学資 前項で挙げた『門』の(一読して分かる)特徴のうち、②の独身女性が登場しないことと関連するが、『門』の主人公は宗助と御米の夫婦者である。この夫婦は漱石の作品にあって例外的に仲が良い。 主役が夫婦である漱…

漱石「最後の挨拶」門篇 1

87.『門』平和な小説(1)――不滅の名文 大西美智子の『巨人と六十五年』(2017年光文社刊)に、漱石の作品で(今現在では)何が好きですかと、筆者が高齢の夫に聞く箇所がある。『それから』ですか『門』ですかと聞く妻に対して、やまいの床に臥す大西巨…

漱石「最後の挨拶」それから篇 23

86.『明暗』に向かって 結婚話を断ってもいけない [漱石「最後の挨拶」番外篇] (前項よりつづく) 11.結婚話を断ってもいけない 『行人』の二郎は三沢に呼び出され、歌舞伎座ならぬ雅楽所で三沢の許嫁の親友という女を紹介される。二郎はその女に少…

漱石「最後の挨拶」それから篇 22

85.『明暗』に向かって 見合いを断ってはいけない [漱石「最後の挨拶」番外篇] 『それから』篇の終わりにあたって、内容は一部重複するが、再び前著(『明暗』に向かって)からの引用を以って補足としたい。引用文冒頭のお見合いというのは、『明暗』の…

漱石「最後の挨拶」それから篇 21

84.『それから』告白がもたらす平和と嵐(2)――もう尻に敷かれている とまれ告白はなされたのであるから、賽は投げられたのであるから、もう他からとやかく言うこともないのである。 しかしこの期に及んでもいろいろ考えさせられるのが漱石の小説であろ…

漱石「最後の挨拶」それから篇 20

83.『それから』告白がもたらす平和と嵐(1)――繰り返し奏されるトリオ さて『それから』全110回のカタログを作成してみると、改めて第14章(全11回)が最も長く、ハイライトの章であることが再確認される。漱石作品最初で最後の「直接告白」の含…

漱石「最後の挨拶」それから篇 19

82.『それから』目次(2)―― 第10章~第17章(ドラフト版) (前項よりつづき) 第10章 三千代2度目の来訪 6月 (門野・三千代)(父・平岡) 1回 代助の不安はどこから来るか 2回 午睡の最中に三千代が来る 3回 人の細君を待ち合わせるには…

漱石「最後の挨拶」それから篇 18

81.『それから』目次(1)―― 第1章~第9章(ドラフト版) 『それから』は漱石によって1から17に分割されているが、小論ではそれをそのまま1章から17章とし、その簡単な概要を新聞掲載回と共に掲げることにする。また章ごとに代助以外の登場人物…

漱石「最後の挨拶」それから篇 17

80.『それから』ミステリツアー(2)――二つの誤記事件 [漱石「最後の挨拶」番外篇] 20.『それから』ミステリツアー(承前) 以上のように『明暗』と『それから』を比べてみて、固有名詞が書かれようが書かれまいが、漱石の場合はその小説世界の現実…

漱石「最後の挨拶」それから篇 16

79.『それから』ミステリツアー(1)―― 四つの橋 [漱石「最後の挨拶」番外篇] 『それから』については前著(『明暗』に向かって)でもいくつか述べたことがある。というのは『それから』も『明暗』も、主人公たちが牛込から小石川、神田界隈まで、似た…

漱石「最後の挨拶」それから篇 15

78.『それから』父と子――金がなければ役立たず 先に『それから』では父が(例外的に)活動すると述べたが、漱石にとって人生では苦々しい存在でしかなかった父親が、作品でどのように描かれたか、例によって順に見てみよう。 『猫』 吾輩の父親は当然なが…

漱石「最後の挨拶」それから篇 14

77.『それから』なぜ年次を間違えるのか(3)――『門』の年表(つづき) 『門』年表(つづき) 明治42年 宗助30歳 小六20歳 (東京2) 10月31日(日) 物語の始まり 宗助御米の日曜日 小六の来訪 11月 回想/宗助のこれまで 安之助のカツオ…

漱石「最後の挨拶」それから篇 13

76.『それから』なぜ年次を間違えるのか(2)――『門』の年表 誤 小六が高等学校の二年生になった(『門』4ノ7回末尾) 正 小六が高等学校の三年生になった(『門』4ノ7回末尾改) これは漱石の単純な書き間違いであろうか。それとも(文選工なり植字…

漱石「最後の挨拶」それから篇 12

75.『それから』なぜ年次を間違えるのか(1)――『門』小六の学年 『門』の年表は門篇で考察すればよいとは思う。しかし本項の始めに『それから』の年表を作成して、そこに1年の錯誤があったときにすぐ気づけばよかったのであるが、そもそも年表の問題に…

漱石「最後の挨拶」それから篇 11

74.『それから』愛は3回語られる(6)――女と金と死が必ず語られる(つづき) (前項よりつづき) 『門』 ①宗助の弟2人(早世) ②妹(夭折)(宗助10歳頃) ③母(宗助20歳頃) ④父(宗助26歳頃) ⑤御米の児3人(*) ⑥佐伯の叔父 ⑦伊藤博文 ⑧弁慶…

漱石「最後の挨拶」それから篇 10

73.『それから』愛は3回語られる(5)――女と金と死が必ず語られる 漱石作品には女と金の話が必ず出て来るが、死もまた必ず語られる。ここで漱石作品に現れる死者の数を順に数えてみよう。もちろん金の話と同じで、厳密にカウントするのは不可能にちかい…