明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」野分篇 11

346.『野分』主人公は誰か(3)――夫婦のあり方 「こっち」のおかげで細君まで主役争いに加わった。 この「複数主人公が銘々自分の思いを表出する」という描き方は、次作『虞美人草』に直結するものであるが、後に『門』にも目立たないように一部受け継がれ…

漱石「最後の挨拶」野分篇 10

345.『野分』主人公は誰か(2)――御政のアリア 漱石は御政という道也の細君を描くときに、「こっち」という言葉を2度使用した。その最初の使用例は、本ブログ第5項で、『野分』という小説が風と共にあるということを述べたとき引用した、道也夫婦の描写部…

漱石「最後の挨拶」野分篇 9

344.『野分』主人公は誰か(1)――見分けるコツは「こっち」 さて本題に戻って『野分』の主人公は誰か。 書出しの「白井道也は文学者である。」を見ても、白井道也であるとするのがふつうかも知れない。年齢も先の年表にあるように明治39年で34歳。漱石…

漱石「最後の挨拶」野分篇 8

343.『野分』のカレンダー(3)――式場益平と会津八一は高柳君の同級生 ここで高柳君の年表をもう1度(簡略化して)掲げる。〇高柳君明治14年 新潟県生れ(1歳)明治28年 長岡中学入学(15歳)明治33年 長岡中学卒業 上京、一高入学へ(20歳)明…

漱石「最後の挨拶」野分篇 7

342.『野分』のカレンダー(2)――描かれなかった山陽路 前項冒頭で物語の期間は明治39年10月下旬~12月中旬の2ヶ月間と述べた。もう少し詳しく見てみると、白井道也が借りた百円について、物語の大詰で(名目上の)債権者が道也に返済を迫るシーンが…

漱石「最後の挨拶」野分篇 6

341.『野分』のカレンダー(1)――やはり1年ズレているかも知れない 『野分』は明治39年12月に書かれ、『ホトトギス』明治40年1月号に一括掲載された。物語は概ねその明治39年の終わりの頃の話である。これは白井道也が演説会で「明治の四十年」(…

漱石「最後の挨拶」野分篇 5

340.『野分』式場益平からの手紙(4)――ゴーン・ウィズ・ザ・ウィンド 本文改訂ということで言えばもう1つ、『坊っちゃん』の清のセリフ、「もう御別れになるかも知れません。存分御機嫌よう」(『坊っちゃん』第1章) 論者は先にこの「存分」を「随分」…