明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2020-01-01から1年間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」門篇 12

98.『門』コントのあとは主役の失踪(1)――佐伯の夫婦はイトコ同士 第1回第2回がショートコントだとすると、小説の本当の始まりが第3回なのだろうか。『門』第1章第3回は、何と主役宗助が日曜に独りで散歩に出た留守中の話になっている。叙述は早くも…

漱石「最後の挨拶」門篇 11

97.『門』始めにコントありき――近江のおおの字じゃなくって 漱石もまた小説の書き出しには気を遣った人であるが、とくに朝日入社以後の多くの作品は、新聞小説を意識したのであろうか、(ブルックナー開始ではないが)漱石開始とでもいうべき、独特の雰囲気…

漱石「最後の挨拶」門篇 10

96.『門』もうひとつの謎――小六をなぜ坂井の書生に出したのか 前項の話は、宗助が鎌倉へ(座禅を組みに)出かける前に、小六を坂井の書生に送り込めば済んだ話ではある。漱石はわざとそうしなかったのであろうか。 どちらにせよこの話にはもうひとつ不自然な…

漱石「最後の挨拶」門篇 9

95.『門』最大の謎――宗助はなぜ小六を残したまま家を出たのか 先にも述べたが『門』で最も不思議なのは、宗助が自宅に小六のいる間に(御米を残したまま)鎌倉へ10日間出かけてしまったことであろう。宗助が気にしないのはいい。宗助は自分が何らかの意思…

漱石「最後の挨拶」門篇 8

94.『門』年表確定――宗助御米の結婚生活は6年 漱石が6年と書いた、宗助と御米の二人暮した年月について、これまでの議論をまとめると、①京大入学年度・6年8ヶ月説=明治34年9月・5年8ヶ月説=明治35年9月(『それから』代助と同じ)②二人の棲む…

漱石「最後の挨拶」門篇 7

93.『門』もうひとつの年表――明治34年スタート説の難点 小六の学年はいいとして、漱石の月日の書き方を少しゆっくり目に解釈すると、宗助(と安井)の京大入学年度を、(明治35年でなく)明治34年であるとする年表も可能になる。それを試してみよう。…

漱石「最後の挨拶」門篇 6

92.『門』小六の学年詳細報告――さらなる正誤表 先に『それから』の論考の中で、『門』の年表も試みに作成した。・第75項 なぜ年次を間違えるのか(1)――『門』小六の学年漱石「最後の挨拶」それから篇 12 - 明石吟平の漱石ブログ ・第76項 なぜ年次を…

漱石「最後の挨拶」門 5

91.『門』の間取り図(完結篇)――勝手口は西でなく北 今回だけブログタイトルの一部を「門篇」から「門」に変えている。他人の成果に直接論評を加えているような書き方をしているので、その心覚えの意味もあって変えてみた。 また小論でおもに参照引用してい…

漱石「最後の挨拶」門篇 4

90.『門』の間取り図(承前)~『明暗』に向かって(第13項つづき) 《漱石「最後の挨拶」番外篇》(前項よりつづき) 13.『門』の間取り図(承前) 物語が進行して(といってもまだ何も事は起こらないが)、小六が同居する話が持ち上がる。ここで家の…

漱石「最後の挨拶」門篇 3

89.『門』の間取り図 ~『明暗』に向かって(第13項) 《漱石「最後の挨拶」番外篇》 宗助と御米が東京で棲み暮らす関口台(今の目白台)あたりの崖下の家について、又々で恐縮であるが、前著(『明暗』に向かって)からの引用文を以って、その間取り図を…

漱石「最後の挨拶」門篇 2

88.『門』平和な小説(2)――小六の学資 前項で挙げた『門』の(一読して分かる)特徴のうち、②の独身女性が登場しないことと関連するが、『門』の主人公は宗助と御米の夫婦者である。この夫婦は漱石の作品にあって例外的に仲が良い。 主役が夫婦である漱石…

漱石「最後の挨拶」門篇 1

87.『門』平和な小説(1)――不滅の名文 大西美智子の『巨人と六十五年』(2017年光文社刊)に、漱石の作品で(今現在では)何が好きですかと、著者が高齢の夫に聞く箇所がある。『それから』ですか『門』ですかと聞く妻に対して、やまいの床に臥す大西巨人…

漱石「最後の挨拶」それから篇 23

86.『それから』結婚話を断ってもいけない ~『明暗』に向かって(第11項) 《漱石「最後の挨拶」番外篇》 (前項よりつづく) 11.結婚話を断ってもいけない『行人』の二郎は三沢に呼び出され、歌舞伎座ならぬ雅楽所で三沢の許嫁の親友という女を紹介される…

漱石「最後の挨拶」それから篇 22

85.『それから』見合いを断ってはいけない ~『明暗』に向かって(第10項) 《漱石「最後の挨拶」番外篇》 『それから』篇の終わりにあたって、内容は一部重複するが、再び前著(『明暗』に向かって)からの引用を以って補足としたい。引用文冒頭のお見合いと…

漱石「最後の挨拶」それから篇 21

84.『それから』告白がもたらす平和と嵐(2)――もう尻に敷かれている とまれ告白はなされたのであるから、賽は投げられたのであるから、もう他からとやかく言うこともないのである。 しかしこの期に及んでもいろいろ考えさせられるのが漱石の小説であろう。…

漱石「最後の挨拶」それから篇 20

83.『それから』告白がもたらす平和と嵐(1)――繰り返し奏されるトリオ さて『それから』全110回のカタログを作成してみると、改めて第14章(全11回)が最も長く、ハイライトの章であることが再確認される。漱石作品最初で最後の「直接告白」の含ま…

漱石「最後の挨拶」それから篇 19

82.『それから』目次(2)―― 第10章~第17章(ドラフト版) (前項よりつづき) 第10章 三千代2度目の来訪 6月(門野・三千代)(父・平岡)1回 代助の不安はどこから来るか2回 午睡の最中に三千代が来る3回 人の細君を待ち合わせるには理論が必…

漱石「最後の挨拶」それから篇 18

81.『それから』目次(1)―― 第1章~第9章(ドラフト版) 『それから』は漱石によって1から17に分割されているが、小論ではそれをそのまま1章から17章とし、その簡単な概要を新聞掲載回と共に掲げることにする。また章ごとに代助以外の登場人物を(…

漱石「最後の挨拶」それから篇 17

80.『それから』ミステリツアー(2)――二つの誤記事件 《漱石「最後の挨拶」番外篇》20.『それから』ミステリツアー(承前) 以上のように『明暗』と『それから』を比べてみて、固有名詞が書かれようが書かれまいが、漱石の場合はその小説世界の現実感に…

漱石「最後の挨拶」それから篇 16

79.『それから』ミステリツアー(1)―― 四つの橋 《漱石「最後の挨拶」番外篇》『それから』については前著(『明暗』に向かって)でもいくつか述べたことがある。というのは『それから』も『明暗』も、主人公たちが牛込から小石川、神田界隈まで、似たよう…

漱石「最後の挨拶」それから篇 15

78.『それから』父と子――金がなければ役立たず 先に『それから』では父が(例外的に)活動すると述べたが、漱石にとって人生では苦々しい存在でしかなかった父親が、作品でどのように描かれたか、例によって順に見てみよう。『猫』 吾輩の父親は当然ながら不…

漱石「最後の挨拶」それから篇 14

77.『それから』なぜ年次を間違えるのか(3)――『門』の年表(つづき) 『門』年表(つづき)明治42年(東京2)宗助30歳 小六20歳10月31日(日)物語の始まり宗助御米の日曜日小六の来訪11月回想/宗助のこれまで安之助のカツオ船石油発動機宗…

漱石「最後の挨拶」それから篇 13

76.『それから』なぜ年次を間違えるのか(2)――『門』の年表 誤 小六が高等学校の二年生になった(『門』4ノ7回末尾) 正 小六が高等学校の三年生になった(『門』4ノ7回末尾改) これは漱石の単純な書き間違いであろうか。それとも(文選工なり植字工…

漱石「最後の挨拶」それから篇 12

75.『それから』なぜ年次を間違えるのか(1)――『門』小六の学年 『門』の年表は門篇で考察すればよいとは思う。しかし本項の始めに『それから』の年表を作成して、そこに1年の錯誤があったときにすぐ気づけばよかったのであるが、そもそも年表の問題につ…

漱石「最後の挨拶」それから篇 11

74.『それから』愛は3回語られる(6)――女と金と死が必ず語られる(つづき) (前項よりつづき) 『門』 ①宗助の弟2人(早世) ②妹(夭折)(宗助10歳頃) ③母(宗助20歳頃) ④父(宗助26歳頃) ⑤御米の児3人(*) ⑥佐伯の叔父 ⑦伊藤博文 ⑧弁慶橋の…

漱石「最後の挨拶」それから篇 10

73.『それから』愛は3回語られる(5)――女と金と死が必ず語られる 漱石作品には女と金の話が必ず出て来るが、死もまた必ず語られる。ここで漱石作品に現れる死者の数を順に数えてみよう。もちろん金の話と同じで、厳密にカウントするのは不可能にちかいが…

漱石「最後の挨拶」それから篇 9

72.『それから』愛は3回語られる(4)――『心』からの再出発 『行人』については先に例を挙げたが、『行人』には「塵労」という(病気による中断の後の)オマケの物語がある。結局二郎の友人三沢は婚約することになったが、三沢にとっては小説の中では3人…

漱石「最後の挨拶」それから篇 8

71.『それから』愛は3回語られる(3)――果てしなき道(つづき) ここで『それから』の本題からは外れるかも知れないが、漱石の描く男と女の愛情の交流について、そのイベントなり要素が漱石によって(外形的に)どのように書かれているか、順に追ってみた…

漱石「最後の挨拶」それから篇 7

70.『それから』愛は3回語られる(2)――果てしなき道 三題噺というものがある。三種の神器というものもある。前項の話は『それから』だけに仕掛けられたトリックであろうか。単なる偶然であろうか。 『三四郎』で露骨に描かれた「恋愛譚」が一つだけある。…

漱石「最後の挨拶」それから篇 6

69.『それから』愛は3回語られる(1)――漱石作品唯一のプロポーズ 漱石の全作品の中で『それから』が独り聳え立っているところが一つある。それは主人公が女に直接愛を告白したことである。前著でも述べたが、男が女に直接プロポーズするのは代助が最初で…