明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2022-01-01から1年間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」草枕篇 26

322.『草枕』目次(13)第9章(つづき)――甥っ子1人登場させたばかりに 第9章 那美さんに個人レッスン (全3回)(承前)2回 メレディスの小説を日本語に直しながら読む(P110-3/これも一興だろうと思ったから、余は女の乞に応じて、例の書物をぽつり…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 25

321.『草枕』目次(12)第8章・第9章――早くも則天去私の考えが 『草枕』目次。引用は岩波書店『定本漱石全集第3巻』(2017年3月初版)を新仮名遣いに改めたもの。回数分けは論者の恣意だが、その箇所の頁行番号ならびに本文を、ガイドとして少しく附す…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 24

320.『草枕』目次(11)第7章――神代のエロティシズム 第7章 浴場の怪事件 (全3回)1回 湯壺の中の哲学的考察(P84-2/寒い。手拭を下げて、湯壺へ下る。 三畳へ着物を脱いで、段々を、四つ下りると、八畳程な風呂場へ出る。石に不自由せぬ国と見えて、下は御…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 23

319.『草枕』目次(10)第6章(つづき)――分刻みの恋(Reprise) 第6章 座敷に独り居て神境に入る (全4回)(承前)4回 振袖披露(P80-11/余が眼を転じて、入口を見たときは、奇麗なものが、既に引き開けた襖の影に半分かくれかけて居た。しかも其姿は余…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 22

318.『草枕』目次(9)第6章――俳句と理屈が代わりばんこに登場する 第6章 座敷に独り居て神境に入る (全4回)1回 何も見ず何も想わない楽しみの世界(P71-11/夕暮の机に向う。障子も襖も開け放つ。宿の人は多くもあらぬ上に、家は割合に広い。余が住む部…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 21

317.『草枕』目次(8)第5章――名前のない登場人物 第5章 まるで浮世床 (全4回)1回 髪結床の親方は元江戸っ子(P57-2/「失礼ですが旦那は、矢張(やっぱ)り東京ですか」「東京と見えるかい」「見えるかいって、一目見りゃあ、――第一言葉でわかりまさあ」「東京は…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 20

316.『草枕』目次(7)第4章(つづき)――画工の疑似恋愛 第4章 スケッチブックの中の詩人 (全4回)(承前)3回 青磁の羊羹(P49-2/余は又ごろりと寝ころんだ。忽ち心に浮んだのは、 Sadder than is the moon's lost light, Lost ere the kindling of da…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 19

315.『草枕』目次(6)第4章――那美さんのラヴレター 第4章 スケッチブックの中の詩人 (全4回)1回 添削もしくは付け文(P41-9/ぽかんと部屋へ帰ると、成程奇麗に掃除がしてある。一寸気がかりだから、念の為め戸棚をあけて見る。下には小さな用箪笥が見え…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 18

314.『草枕』目次(5)第3章(つづき)――女王は3回初登場する(実践篇) 第3章 夜おそく那古井の宿へ到着(全4回)(承前)2回 歌う女(P30-13/そこで眼が醒めた。腋の下から汗が出ている。妙に雅俗混淆な夢を見たものだと思った。昔し宋の大慧禅師と云…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 17

313.『草枕』目次(4)第3章――那古井は2度目というけれど 第3章 夜おそく那古井の宿へ到着(全4回)1回 春の夜の夢(P27-10/昨夕は妙な気持ちがした。宿へ着いたのは夜の八時頃であったから、家の具合庭の作り方は無論、東西の区別さえわからなかった。何…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 16

312.『草枕』目次(3)第2章――画工33歳那美さん25歳 第2章 峠の茶屋で写生と句詠(全4回)1回 高砂の媼(P15-3/「おい」と声を掛けたが返事がない。軒下から奥を覗くと煤けた障子が立て切ってある。向う側は見えない。五六足の草鞋が淋しそうに庇から吊…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 15

311.『草枕』目次(2)第1章(つづき)――非人情の旅とは何か 第1章 山路を登りながら考えた(全4回)(承前)2回 雲雀の詩(P6-3/忽ち足の下で雲雀の声がし出した。谷を見下したが、どこで鳴いてるか影も形も見えぬ。只声だけが明らかに聞える。せっせと忙…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 14

310.『草枕』目次(1)第1章――真の詩人は坊っちゃんか 回り道をしたが、ここで『草枕』にも目次を付けてみる。引用はいつも通り『定本漱石全集第3巻』(2017年3月初版)。ただし新仮名遣いに改めている。回数分けは論者の恣意であるが、ガイドとしてその…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 13

309.『草枕』あぶない小説(4)――『一夜』の脚本 (前項の)3人の生涯は余計な話(小説的に空想した無駄話)であるが、難解な『一夜』を少しでも分かりやすくするため、ここで最後に本文を脚本ふうにリライトしてみよう。本文は引用と同じ青色で示すが、赤…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 12

308.『草枕』あぶない小説(3)――『一夜』3つの嘘 さて『草枕』の話に戻らねばならないが、その前に、『草枕』のプロローグたる『一夜』について、もう少し詳しく見てみよう。 前述したが『一夜』はよく分からない作品である。その上作者の漱石が(『猫』…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 11

307.『草枕』あぶない小説(2)――女王は3回初登場する 全13回の登場シーンを有つ那美さんであるが、その那美さんは贅沢にも初登場シーンが3回ある。それはあたかも漱石の処女作が『猫』・『坊っちゃん』・『倫敦塔』(あるいは『草枕』)と3つあること…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 10

306.『草枕』あぶない小説(1)――始めて描かれたヒロイン 『草枕』の最大の特長は那美さんというヒロインの造形であろう。ヒロインとしては金田富子、マドンナに次いで3番目の登場であるが、前2者はほとんどセリフがない。那美さんが始めて生きて自分の意…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 9

305.『草枕』幻の最終作品(3)――もうひとつの『明暗』と『迷路』 漱石の手帳(メモ)を再度引用する。〇二人して一人の女を思う。一人は消極、sad, noble, shy, religious, 一人は active, social. 後者遂に女を得。前者女を得られて急に淋しさを強く感ず…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 8

304.『草枕』幻の最終作品(2)――主人公は芸術家 『三四郎』以降の新聞小説を3部作のセットとして捉え、そのため『道草』『明暗』に続く「幻の最終作品」が構想されていた筈である、というのが前著(『明暗』に向かって)の主張の1つである。さてその幻の…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 7

303.『草枕』幻の最終作品(1)――3部作の秘密 さて本ブログは、Ⅰ 青春3部作(『三四郎M41』『それからM42』『門M43』)Ⅱ 中期3部作(『彼岸過迄M45』『行人T2』『心T3』) を順に取扱ったあと、最後の作品群に移る前に、『坊っちゃん』『草枕』(おそら…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 6

302.『草枕』降臨する神々(6)――消えろ消えろ束の間のともしび そして調子に乗ってもう1つ、『趣味の遺伝』の中にある漱石のマクベス論について言及した記念として、論者の生涯で最も記憶に残るマクベスの名が語られた場面を紹介したい。それは堤重久の『…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 5

301.『草枕』降臨する神々(5)――『趣味の遺伝』の実相 マクベスが出て来るようでは何人も黙って引き下がるしかないのだが、ここで『趣味の遺伝』の筋書きをまとめれば、①ある日浩さんが本郷郵便局で令嬢を見染めた。②令嬢も密かに感応したがピュアな浩さん…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 4

300.『草枕』降臨する神々(4)――『趣味の遺伝』とマクベス とは言っても、『趣味の遺伝』の書き足りない部分というのは、やはり気になる。創作の意図は(余計なお世話だから)問わないにしても、漱石があの物語の結構をどのように考えていたかは、探ってみ…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 3

299.『草枕』降臨する神々(3)――『趣味の遺伝』と『坊っちゃん』 明治38年に書かれた『一夜』と明治39年の金字塔『草枕』に関連して、同じように明治38年(12月)に書かれた『趣味の遺伝』と明治39年の国民的名作『坊っちゃん』の関係が類推され…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 2

298.『草枕』降臨する神々(2)――『一夜』との関係 『坊っちゃん』といえば『草枕』であるが、『草枕』の価値についても多言を要しない。それらの製作時期を掲げるだけで充分計り知ることが可能である。明治38年1月号 『猫』第1篇「吾輩は猫である」明…

漱石「最後の挨拶」草枕篇 1

297.『草枕』降臨する神々(1)――不惑の詩人 「正岡子規三十六、尾崎紅葉三十七、斎藤緑雨三十八、国木田独歩三十八、長塚節三十七、芥川龍之介三十六、嘉村礒多三十七。」 これは昭和19年、有名な太宰治『津軽』の書き出しであるが、この顰に倣えば太宰…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 40

296.『坊っちゃん』 ブログ総目次 ブログ総目次坊っちゃん篇1 257.『坊っちゃん』日本で一番有名な小説(1)――ライバルは『心』と『破戒』漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 1 - 明石吟平の漱石ブログ 坊っちゃん篇2 258.『坊っちゃん』日本で一番有名な小…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 39

295.『坊っちゃん』全45回詳細目次――カレンダー付 第1章 坊っちゃん (全5回) (明治16年~明治38年/明治38年8月31日木曜~9月2日土曜)1回 親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりして居る(明治16年1歳~明治28年13歳)(P249-5/…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 38

294.『坊っちゃん』全45回詳細目次――カレンダーなし 先にも断った通り回数分けやそのタイトルは勝手に付けたものである。回数分けのガイドとなる頁の表示は、岩波書店版『定本漱石』第2巻(2017年1月初版)に拠った。第1章 坊っちゃん (全5回) 1回 …

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 37

293.『坊っちゃん』全45回目次――カレンダー付 第1章 坊っちゃん (全5回)(明治16年~明治38年/明治38年8月31日木曜~9月2日土曜) 1回 親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりして居る(明治16年1歳~明治28年13歳) 2回 こいつは…