明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2020-01-01から1年間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」それから篇 5

68.『それから』年表(2)――真の問題点 論者は先に『三四郎』の本文改訂案としていくつか挙げたが、おもむきは異なるが、『それから』でも、改めて本文改訂を提案したい。誤 代助が三千代と知り合になったのは、今から四五年前の事で、(7ノ2回冒頭) 正 …

漱石「最後の挨拶」それから篇 4

67.『それから』年表(1)――結婚は最初から破綻していた 『それから』の物語の今現在は、前述のように明治42年で問題ない。そこで『それから』のおおよその年表を作ってみる。代助たちの大学入学から、三千代の上京、菅沼の急死、卒業、結婚、転勤、そし…

漱石「最後の挨拶」それから篇 3

66.『それから』内容見本(2)――2ノ1回全文引用(つづき) (前項よりつづき) ⑨ 物語は(『三四郎』と違って)高等商業の学校騒動、『煤煙』、日糖事件等の記述から、明治42年以外の何物でもないことが分かるが、平岡の上京の季節もまた明示されている…

漱石「最後の挨拶」それから篇 2

65.『それから』内容見本(1)――2ノ1回全文引用 いきなり大きく構えてしまったので、次は反対に本文に即して細かい観察を試みることにする。見本として、2ノ1回を採り上げる。 青色で示した引用本文は、「三四郎篇」同様岩波書店版の漱石全集(初版1994…

漱石「最後の挨拶」それから篇 1

64.『それから』はじめに――『それから』最大の謎 『三四郎』の野々宮君(野々宮さん)と広田先生を最後に、漱石作品から君さん付けは姿を消した。漱石は真顔になったと言うべきか。真に職業作家になったと言うべきか。あるいは余裕がなくなってつまらなくな…

山田風太郎の「あげあしとり」 3

63.山田風太郎の「あげあしとり」(3)――国民作家吉川英治 [漱石「最後の挨拶」番外篇] さて吉川英治はいつもこんな(危ない橋を渡るような)書き方をしているのだろうか。「宮本武蔵」全7巻の内の第1巻「地の巻」の「縛り笛」の章に、早くもこんな記述…

山田風太郎の「あげあしとり」 2

62.山田風太郎の「あげあしとり」(2)――風太郎の勘違い [漱石「最後の挨拶」番外篇] もう一度山田風太郎の指摘する箇所を、「吉川英治全集」(講談社昭和43年初版)から直接引いてみる。山田風太郎が引用した部分は重ねてボールドで示す。 なお、前項で…

山田風太郎の「あげあしとり」 1

61.山田風太郎の「あげあしとり」(1)――武蔵の勘違い [漱石「最後の挨拶」番外篇] 論者は前著で、山田風太郎の「あげあしとり」(『推理』昭和47年)という短文について、「全文引用したい誘惑にかられる」と書いたが(先の第58項でも重ねて書いた)、…

『明暗』に向かって 漱石作品最大の謎

60.『明暗』に向かって 漱石作品最大の謎――須永の母はなぜ市蔵を一人で返したか [漱石「最後の挨拶」番外篇] 前著で論者は「漱石作品最大の誤植」で、夏目鏡子の『思い出』の百年放置された誤植問題を追及した。小論でも先にそれを再掲載して訴えた。単行…

『明暗』に向かって お延「女下駄」事件 2

59.『明暗』に向かって お延「女下駄」事件(2)――お延の勘違い(つづき) [漱石「最後の挨拶」番外篇] 16.お延「女下駄」事件(承前)―― お延の勘違い 津田がお時を追い払ったあとも、津田とお秀のバトルは留まるところを知らない。 そして「……彼は何…

『明暗』に向かって お延「女下駄」事件 1

58.『明暗』に向かって お延「女下駄」事件(1)――お延の勘違い [漱石「最後の挨拶」番外篇] もう少しだけ前著(『明暗』に向かって)からの「引用」をお許しいただきたい。 各種の全集本や文庫本の『明暗』のどれを見ても、この漱石の「錯誤」について指…

『明暗』に向かって はじめに(3)

57.『明暗』に向かって 「はじめに」(3)――三部作の秘密 [漱石「最後の挨拶」番外篇] Ⅰ 初期三部作(『三四郎』『それから』『門』) Ⅱ 中期三部作(『彼岸過迄』『行人』『心』) Ⅲ 晩期三部作(『道草』『明暗』『(書かれなかった最後の小説)』) 改…

『明暗』に向かって はじめに(2)

56.『明暗』に向かって 「はじめに」(2)――漱石幻の最終作品 [漱石「最後の挨拶」番外篇] 漱石の三部作といえばまず『三四郎』『それから』『門』というのが定番だが、続く『彼岸過迄』『行人』『心』も、短篇を並べて一箇の長篇にするという手際におい…

『明暗』に向かって はじめに(1)

55.『明暗』に向かって 「はじめに」(1)――野上弥生子の『明暗』 [漱石「最後の挨拶」番外篇] 「『明暗』に向かって」には、かなりの長さの前書きが付いている。本体の論考とはほぼ無関係の、それこそ「番外篇」のような記事であるが、そのため単独で読…

『明暗』に向かって 「目次」注解

54.『明暗』に向かって 「目次」注解 [漱石「最後の挨拶」番外篇] 前著61項400頁は、論考の当否はともかく、難解なところはどこにもない。 目次に書いたのは、本文の小見出し等ではなく、本文の内容のダイジェストを、少し惹句ふうにアレンジしたもの…

『明暗』に向かって 目次 4

53.『明暗』に向かって 目次(4) [漱石「最後の挨拶」番外篇] (前項よりつづく) Ⅳ 珍野家の猫45.『猫』第1冊目次吾輩は猫である/太平の逸民/金田事件/鈴木藤十郎君(金田事件Ⅱ)/泥棒事件と多々良三平 46.『猫』第2冊目次夏来たる・太平の…

『明暗』に向かって 目次 3

52.『明暗』に向かって 目次(3) [漱石「最後の挨拶」番外篇] (前項よりつづく) Ⅲ 棗色の研究31.お延「見上げる女」お延の初登場と二つの嘘/美禰子の初登場と年上の女/フラウ門に倚って待つ 32.お延「見上げる女」(承前)――『文鳥』と『永日…

『明暗』に向かって 目次 2

51.『明暗』に向かって 目次(2) [漱石「最後の挨拶」番外篇] (前項よりつづく) Ⅱ 小石川の谷(と台地)15.お延「女下駄」事件山田風太郎の「あげあしとり」/小林の外套事件/お時によって語られていたお秀の病院来訪 16.お延「女下駄」事件(…

『明暗』に向かって 目次 1

50.『明暗』に向かって 目次(1) [漱石「最後の挨拶」番外篇] 恐縮ついでに「『明暗』に向かって」の「目次」を紹介したい。同書は前書き以外に61の項から成る。全61項は便宜的に Ⅰ 四つの改訂Ⅱ 小石川の谷(と台地)Ⅲ 棗色の研究Ⅳ 珍野家の猫 の4…

『明暗』に向かって 正誤表

49.『明暗』に向かって 正誤表 [漱石「最後の挨拶」番外篇] 前述したが論者(筆者)は2020年2月に東京図書出版より「『明暗』に向かって」を自費出版した。500部作って半分くらい売れた(半分くらいしか売れなかった)ようである。 ここで大変恐縮…

漱石「最後の挨拶」三四郎 外伝3

48. 『三四郎』外伝(3)――「だろうじゃないか」 こんなことをいつまで書いても仕様がないが、最後にもう1つだけ、精養軒での文芸家の懇親会での原口の発言。「そう云う自然派なら、文学の方でも結構でしょう。原口さん、画の方でも自然派がありますか」と…

漱石「最後の挨拶」三四郎 外伝2

47.『三四郎』外伝(2)――「のだね」と「だもの」 三四郎の「悪い」という告発の尻馬に乗るわけではないが、ここで漱石の良くない文例について、もちろん論者の個人的な好悪の中での話になるが、一応言うだけは言っておきたい。 それは最初『三四郎』の中で…

漱石「最後の挨拶」三四郎 外伝1

46. 『三四郎』外伝(1)――森の女と云う題が悪い さて「目次」が最後に来てしまったが、前回の45回まででひとまず『三四郎』の回はお終いである。 次は『それから』になるが、その前にインターバルとして、余計なことをいくつか書くことにする。これはあ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 43

45.『三四郎』ブログ総目次 1.『三四郎』112年目の本文改訂(1)―― 字下ゲセズ漱石「最後の挨拶」三四郎篇 1 - 明石吟平の漱石ブログ 2.『三四郎』112年目の本文改訂(2)―― 改行してはいけない漱石「最後の挨拶」三四郎篇 2 - 明石吟平の漱石ブロ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 42

44.『三四郎』目次(3)―― 第10章~第12章・エピローグ(ドラフト版) (前項よりつづく) 第10章 アトリエの客12月10日(水)頃(広田先生・客の男・原口家の小女・原口・美禰子・美禰子の婚約者)1回 広田先生の病気~元教え子の中学教師~田…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 41

43.『三四郎』目次(2)―― 第5章~第9章(ドラフト版) (前項よりつづく) 第5章 ストレイシープ11月9日(土)~11月10日(日)(よし子・野々宮・美禰子・広田先生・与次郎)1回 よし子の水彩画2回 野々宮と里見の関係を聞き取り調査3回 よ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 40

42.『三四郎』目次(1)―― 第1章~第4章(ドラフト版) 『三四郎』は漱石によって1から13に分割されているが、小論では1章から12章およびエピローグに分かち、その簡単な概要を新聞掲載回と共に掲げることにする。また章ごとに三四郎以外の登場人物…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 39

41.『三四郎』最後の疑問(2)―― 魔の13回 「二人きり」を離れても、変な記述は探せば見つかるようである。それは三四郎と美禰子との正式な初対面たる引越の日のこと。荷物を積んだ大八車と共に与次郎が到着する。「里見の御嬢さんは、まだ来ていないか」…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 38

40.『三四郎』最後の疑問(1)―― デヴィル大人とは何か 『三四郎』において広田先生の引越以外に疑問点はもうないか。 三四郎と(池の女を除く)美禰子の(二人きりの)逢瀬は全部で8ヶ所(厳密には7ヶ所)。いずれも印象的で『三四郎』の名を永遠たらし…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 37

39.『三四郎』の錬金術―― 高等学校答案調べの怪 さて漱石の小説の中で女の話に次いで難解なのが金の話である。「坊っちゃん」はお金に恬淡であると、一般には思われがちであるが、小説『坊っちゃん』は、全篇くまなくお金の話に満ちている。主人公は常にお金…