明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

三四郎

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 補遺

122.漱石「最後の挨拶」三四郎篇・番外篇 総目次 『門』『それから』のついでに本ブログ第1弾『三四郎』および附属各篇の目次もここに再整理しておく。 漱石「最後の挨拶」三四郎篇(1回~12回) 1. 三四郎篇1 『三四郎』112年目の本文改訂(1)――…

漱石「最後の挨拶」三四郎 外伝3

48. 『三四郎』外伝(3)――「だろうじゃないか」 こんなことをいつまで書いても仕様がないが、最後にもう1つだけ、精養軒での文芸家の懇親会での原口の発言。「そう云う自然派なら、文学の方でも結構でしょう。原口さん、画の方でも自然派がありますか」と…

漱石「最後の挨拶」三四郎 外伝2

47.『三四郎』外伝(2)――「のだね」と「だもの」 三四郎の「悪い」という告発の尻馬に乗るわけではないが、ここで漱石の良くない文例について、もちろん論者の個人的な好悪の中での話になるが、一応言うだけは言っておきたい。 それは最初『三四郎』の中で…

漱石「最後の挨拶」三四郎 外伝1

46. 『三四郎』外伝(1)――森の女と云う題が悪い さて「目次」が最後に来てしまったが、前回の45回まででひとまず『三四郎』の回はお終いである。 次は『それから』になるが、その前にインターバルとして、余計なことをいくつか書くことにする。これはあ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 43

45.『三四郎』ブログ総目次 1.『三四郎』112年目の本文改訂(1)―― 字下ゲセズ漱石「最後の挨拶」三四郎篇 1 - 明石吟平の漱石ブログ 2.『三四郎』112年目の本文改訂(2)―― 改行してはいけない漱石「最後の挨拶」三四郎篇 2 - 明石吟平の漱石ブロ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 42

44.『三四郎』目次(3)―― 第10章~第12章・エピローグ(ドラフト版) (前項よりつづく) 第10章 アトリエの客12月10日(水)頃(広田先生・客の男・原口家の小女・原口・美禰子・美禰子の婚約者)1回 広田先生の病気~元教え子の中学教師~田…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 41

43.『三四郎』目次(2)―― 第5章~第9章(ドラフト版) (前項よりつづく) 第5章 ストレイシープ11月9日(土)~11月10日(日)(よし子・野々宮・美禰子・広田先生・与次郎)1回 よし子の水彩画2回 野々宮と里見の関係を聞き取り調査3回 よ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 40

42.『三四郎』目次(1)―― 第1章~第4章(ドラフト版) 『三四郎』は漱石によって1から13に分割されているが、小論では1章から12章およびエピローグに分かち、その簡単な概要を新聞掲載回と共に掲げることにする。また章ごとに三四郎以外の登場人物…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 39

41.『三四郎』最後の疑問(2)―― 魔の13回 「二人きり」を離れても、変な記述は探せば見つかるようである。それは三四郎と美禰子との正式な初対面たる引越の日のこと。荷物を積んだ大八車と共に与次郎が到着する。「里見の御嬢さんは、まだ来ていないか」…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 38

40.『三四郎』最後の疑問(1)―― デヴィル大人とは何か 『三四郎』において広田先生の引越以外に疑問点はもうないか。 三四郎と(池の女を除く)美禰子の(二人きりの)逢瀬は全部で8ヶ所(厳密には7ヶ所)。いずれも印象的で『三四郎』の名を永遠たらし…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 37

39.『三四郎』の錬金術―― 高等学校答案調べの怪 さて漱石の小説の中で女の話に次いで難解なのが金の話である。「坊っちゃん」はお金に恬淡であると、一般には思われがちであるが、小説『坊っちゃん』は、全篇くまなくお金の話に満ちている。主人公は常にお金…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 36

38.『三四郎』池の女(4)―― 見返り美人(つづき) (前項よりつづき) ⑤まともに男を見た ⑦無論習って覚えたものではない これらは漱石が三四郎を離れて、少しだけ美禰子に乗り移ったような書き方になっている例である。 漱石は俯瞰をしない。漱石は基本的…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 35

37.『三四郎』池の女(3)―― 見返り美人 池の女は初会(9月初旬)の後、1ヶ月と1週間を経て(10月中旬)、再び三四郎に遭遇する。初会は三四郎が野々宮(兄)を訪ねた帰りしな、2回目は野々宮(妹)のよし子を見舞って病室を出た直後、まだ建物内での…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 34

36.『三四郎』池の女(2)―― ひめいちの焼き方 (前項よりつづき) ⑤「是は何でしょう」と云って、仰向いた 前項③「まぼしい女」と並んで、「仰向く女」「見上げる女」もまた漱石のおはこである。喉から顎にかけての(女性特有の)曲線を、漱石は好むのか。…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 33

35.『三四郎』池の女(1)―― 初登場シーンの約束事 さて『三四郎』に戻って、汽車の女の次は池の女である。その池の女の初登場シーン、第2章の第4回。 ①不図眼を上げると、左手の岡の上に女が二人立っている。女のすぐ下が池で、池の向こう側が高い崖の木…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 32

34.『三四郎』のカレンダー(補遺)―― 三部作の秘密 漱石は自分の書きたいようにしか書かなかった我儘な作家であったが、また新作ごとに趣向を変え、何かしらの工夫を凝らす、サーヴィス精神も備えた篤実な作家でもあった。 漱石は二番煎じ・同工異曲・(小…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 31

33.『三四郎』のカレンダー(10)―― エピローグの秘密 さて『三四郎』第13章全1回は、前にも少し触れた通り、それまでの章とはまったく別仕立ての回となっている。前半は三四郎さえ登場しない。後半も叙述は三四郎を離れて、元に戻るのは最後の数行だけ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 30

32.『三四郎』のカレンダー(9)―― 天長節ふたたび ここであらためて明治40年説に則り、『三四郎』全体のカレンダーをもう一度整理しておく。明治40年8月29日(木) 三四郎の出立日(推定)。明治40年8月30日(金) 物語の始まり。名古屋泊。(…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 29

31.『三四郎』のカレンダー(8)―― 広田先生「夢の女」 年次の話はもういいよと言われそうであるが、最後に一つだけ、第11章の広田先生の夢の話について。第10章でついに美禰子の婚約者を登場させ、物語はもう実質的には終わっている。それで気が緩んだ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 28

30.『三四郎』のカレンダー(7)―― 教会の前の分かれ道 それはともかく、ここでようやく前項②③④⑤(7ノ1回~7ノ6回)、第7章の暦の推定が可能になる。 第7章。広田先生を訪ねる。与次郎は前の日から帰っていない。広田先生の御談義。偽善者と露悪家。…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 27

29.『三四郎』のカレンダー(6)―― 母からの手紙 漱石は日にちをはっきり書いているわけではないので、菊人形の日曜日の次の土曜日が運動会であると仮定して、(日にちの齟齬は与次郎のそそっかしさのせいにして)、とりあえずカレンダーの続きはこうなる(…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 26

28.『三四郎』のカレンダー(5)―― 破綻はあるか 第6章の暦は以下の通り。①「僕等が菊細工を見に行く時書いていたのは、是か」「いや、ありや、たった二三日前じゃないか。そう早く活版になって堪るものか。・・・」(『三四郎』6ノ1回) ②「今晩出席す…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 25

27.『三四郎』のカレンダー(4)―― 菊人形への道 続く第4章の暦は一部先の天長節の項と重なるが、① 三四郎の魂がふわつき出した。講義を聞いていると、遠方に聞える。わるくすると肝要な事を書き落とす。甚しい時は他人の耳を損料で借りている様な気がする…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 24

26.『三四郎』のカレンダー(3)―― 小さんと円遊 では明治39年を念頭に置いて、改めて第3章からの三四郎のスケジュールを追ってみる。① 学年は九月十一日に始まった。(『三四郎』3ノ1回冒頭) ② 翌日は正八時に学校へ行った。(3ノ1回) ③ けれども…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 23

25.『三四郎』のカレンダー(2)―― 天長節の呪縛 しかるにその11月の初旬、広田先生の引越騒動が描かれる第4章で、読者は肩透かしを喰わされる。引越の日は三四郎が里見美禰子と正式に知り合う日であり、それは天長節の日だと漱石は何度も書いているから…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 22

24.『三四郎』のカレンダー(1)―― 旅順と大連 前述したように『三四郎』全117回は明治41年8月~9月の2ヶ月間に書かれた。新聞連載は9月から12月までの4ヶ月間。物語の暦もおおむね連載とリンクして、8月末から12月冬休みの直前まで。エピロ…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 21

23.『三四郎』汽車の女(9)―― 三四郎の無罪判決 いずれにせよ三四郎は最初の難事件をなんなくやり過ごした、――ように小説は読める。三四郎は後から何度も顔を赫らめるが、それだけのことである。女に対して気の毒に思う、女や女の家族に対して済まなく思う…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 20

22.『三四郎』汽車の女(8)―― 汽車の女「同衾事件」 三四郎の「同衾事件」については、三四郎を責める向きもあろう。あるいはその反対に、三四郎を単なる被害者として、善悪の問題から超越させる見方もあるかも知れない。漱石は倫理の人であったが、漱石の…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 19

21.『三四郎』汽車の女(7)―― 東海道線と髭の男 桃を食べながら二人の会話、というより髭の男(広田先生)の講義は、だんだん哲学的になっていく。広田先生は桃の食べかすを新聞紙に包んで窓から放り出す。 ここまでの記述で確かなことは次の三つである。①…

漱石「最後の挨拶」三四郎篇 18

20.『三四郎』汽車の女(6)―― 消えた山陽鉄道 ストップウォッチや懐中時計とは対照的な話になるが、三四郎の京都までの旅程は、小説の中ではあっさり省略された。福岡県の田舎を出発した三四郎は、明治40年頃であれば下関から鉄路で東上したはずである。…