明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2023-01-01から1年間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」野分篇 29

364.『野分』すべてがこの中にある(8)――病気をするために生れてきた(つづき) 《例題13 死に至る病》 病気だから死ぬのか、死ぬから病気なのか。病気もまた、漱石の小説に付き物である。「病気をしに生れて来た」漱石らしく、誰かが病気に罹らない漱石…

漱石「最後の挨拶」野分篇 28

363.『野分』すべてがこの中にある(7)――病気をするために生れてきた 漱石に似合わない「酒」の話のあとは、最後に漱石らしい「苦の世界」で終わりたい。「生老病死」と一口に言うが、いずれも自分1人の力ではどうにもならないものの代表である。表向き自…

漱石「最後の挨拶」野分篇 27

362.『野分』すべてがこの中にある(6)――愛だけが欠けていた 旅をすればこそ人は手紙も書く。では人は何のために旅するのか。愉しみのためだけに旅することも勿論あるだろうが、いつの時代でも人は生きるために移動する。漱石作品でも多くの登場人物は仕事…

漱石「最後の挨拶」野分篇 26

361.『野分』すべてがこの中にある(5)――旅する人が手紙を書く 旅する人になくてはならぬものの1つに「手紙」がある。文人漱石にとっては旅の土産品より手紙の方が大切だったのではないか。漱石は多く手紙を書いた人であったが、自分の小説にもまた多く手…

漱石「最後の挨拶」野分篇 25

360.『野分』すべてがこの中にある(4)――西へ西へと移動する(つづき) (前項よりつづき)《例題2 外地・外国・西洋人・洋書》 国内旅行の延長線上に海外旅行がある。現代の我々はそう思いがちであるが、文明開化・富国強兵の明治の人にとっては、どうし…

漱石「最後の挨拶」野分篇 24

359.『野分』すべてがこの中にある(3)――西へ西へと移動する Ⅰ 『野分』にのみあって、他の漱石作品には見られないもの。Ⅱ 『野分』にも他のすべての漱石作品にも、共通してあるもの。Ⅲ 他のすべての漱石作品にあるが、『野分』にだけないもの。(以上再掲…

漱石「最後の挨拶」野分篇 23

358.『野分』すべてがこの中にある(2)――披露宴と演説会 (前項よりつづき)Ⅰ 『野分』にのみあって、他の漱石作品には見られないもの。 前回までのところでは、『野分』の独自性を発揮するような箇所はなかったようである。『野分』にしか使われない部品…

漱石「最後の挨拶」野分篇 22

357.『野分』すべてがこの中にある(1)――オリジナルを求めて 『野分』の基本的な枠組は、前項まで述べて来たような『明暗』への萌芽となる「対決する」人物群の設定であるが、その外に『野分』ならではの独自性が発見できるか、その小説的道具立て(使われ…

漱石「最後の挨拶」野分篇 21

356.『野分』どのような小説か(4)――『明暗』への道 前項で述べた、漱石作品が「いつまでも読まれ続ける」ということで、すぐに思いつくもう1人の作家太宰治について、本ブログ草枕篇(6)でも取り上げた堤重久によって、作家本人の(初会の日の)こんな…

漱石「最後の挨拶」野分篇 20

355.『野分』どのような小説か(3)――道也のアリア 何度も書くように『野分』は、複数主人公が互いに親密な会話を交わす、あるいはバトルを繰り広げるという意味で、通俗小説的であるとも言える。この書き方はそのまま次回作『虞美人草』に引き継がれ、そこ…

漱石「最後の挨拶」野分篇 19

354.『野分』どのような小説か(2)――妹の力 先に(『主人公は誰か』の項目で)夫婦のあり方、兄弟について述べたからには、ここで「妹」について一言触れてみるのも、公平さという観点からは無駄ではあるまい。 末っ子あるいは1人っ子の漱石には当然弟も…

漱石「最後の挨拶」野分篇 18

353.『野分』どのような小説か(1)――男の小説 さて偉そうに言うわけではないが、『野分』の成功しなかったのは、白井道也と高柳周作の怒りが通俗小説的な世界に、バラバラに置き去りにされてしまったためであろうか。 白井道也(の心の裡の怒り)も高柳周…