419.『猫』下編目次――太平の逸民全員集合
第10篇 艶書事件
(1)則天去私
主人・細君・御三・とん子・すん子・坊ば・俥屋の子供・車夫
人間も返事がうるさくなる位無精になるとどことなく趣きがあるが、こんな人に限って女に好かれた試しがない/主人の朝寝坊/三姉妹の洗顔/「そんなに言わなくても今起きる」と夜着の袖口から答えたのは奇観である/主人は押入れに逆さに貼ってある古新聞を読む/伝通院の尼事件~今泣いた烏がもう笑った/長火鉢事件/三姉妹の容貌/三姉妹の朝食/主人は一言もいわずに専心自分の飯を食い自分の汁を飲む/今に三人が申し合わせたように情夫を拵えて出奔しても、やはり自分の飯を食って自分の汁を飲んで澄まして見ているだろう/主人は日曜日なのに学校へ欠勤届を出して日本堤の警察署へ出頭する
(2)雪江登場
雪江・細君・とん子・すん子・坊ば
雪江来たる/主人の悪口「蒟蒻閻魔」「天探女」/ただ怒るばかりじゃないのよ、人が右といえば左、左といえば右で、何でも人の言う通りにしたことがない/保険不要論「いえ決して死なない、誓って死なない」/淑徳婦人会で八木独仙の演説会があった/石地蔵と馬鹿竹の話/人間は魂胆があればあるほど、その魂胆が祟って不幸の源をなす/演説会には金田富子も来ていた/雪江は富子の噂をする~お化粧をするが器量は並である・東風が新体詩を捧げた・誰かから艶書が来た・寒月と結婚するらしい/招魂社嫁入事件~かように三人が顔を揃えて招魂社へ嫁に行けたら主人もさぞ楽であろう
(3)盗品還る
主人・細君・雪江
主人の帰宅「やあ来たね」/盗品は山の芋と帯の片側以外は出て来た、みな解いて洗い張りしてある/(保険に)ぜひ来月から這入るんだ/雪江がいらないと言った蝙蝠傘をそれなら返せと言う/「お前は愚物のくせにやに強情だよ、それだから落第するんだ」「落第したって叔父さんに学資は出してもらやしないわ」/雪江の涙
(4)艶書事件
主人・古井武右衛門・寒月・細君・雪江
大きな毬栗頭の生徒が来訪/「さあお敷き」/艶書事件/金田富子への付け文に名前を貸した生徒はしょげ切っているが主人は一向気にする様子はない/寒月来たる/上野の森へ虎の鳴き声を聞きに行こうという/主人の家の新聞は読売新聞であった/古井武右衛門は埒が明かないので帰ることにする「帰るかい」/コロンバスの邦訳/「だって君が貰うかも知れない人だぜ」「貰うかも知れないから構わないんです、なあに金田なんか構やしません」/寒月は近日中にちょっと用事で郷里に帰るという
第11篇 太平の逸民全員集合
(1)全員揃った太平の逸民
迷亭・独仙・主人・寒月・東風
迷亭と独仙の囲碁/「迷亭君、君の囲碁は乱暴だよ、そんな所へ這入ってくる法はない」/寒月の国の土産は三本の鰹節/鰹節はヴァイオリンと一緒の袋に入れていたが鼠が両方とも齧ってしまった/「こっちは…こっちはこっちはとて暮れにけりと、どうもいい手がないね、君もう一遍打たしてやるから勝手な所へ一目打ちたまえ」/主人の女性不要論~独仙も寒月も東風も反対/東風「僕の考えでは人間が絶対の域に入るにはただ二つの道があるばかりで、それは芸術と恋だ、夫婦の愛はその一つを代表するものだ」
(2)寒月のヴァイオリン購入事件
迷亭・独仙・寒月・主人・東風
寒月が田舎の高等学校でいかにしてヴァイオリンを購入するに至ったか/見つかれば生意気だというのですぐ殴られる/人目につくので夜まで待つ/主人「おいもうヴァイオリンを買ったかい」東風「これから買うところです」/買ったヴァイオリンの置き場所に窮して下宿の古つづらの中へ隠す/羅甸語は分かってるが何と読むんだい~無論読めるさ、読めることは読めるが、こりゃ何だい
(3)ヴァイオリン試奏未遂事件と寒月の結婚
寒月・迷亭・東風・主人・独仙
「先生子規さんとは御つき合いでしたか」「なにつき合わなくっても始終無線電信で肝胆相照らしていたもんだ」/味醂盗飲事件~昔鈴木藤十郎の味醂を迷亭や主人が飲んでしまった~黙っていろ、羅甸語も読めないくせに~大将(苦沙弥)部屋の隅の方に朱泥を練りかためた人形のようにかたくなっていらあね/迷亭の煙草盗飲事件「失礼ですがこんな粗葉でよろしければどうぞお呑み下さいまし」/
寒月は買ったヴァイオリンを弾く場所がない/深夜灯りも点けず山へ行ってみる/総身の毛穴が急にあいて焼酎を吹きかけた毛脛のように勇気・胆力・分別・沈着などと号する御客様がすうすうと蒸発して行く、心臓が肋骨の下でステテコを踊り出す、両足が紙鳶のうなりように震動をはじめる/何だか君の話は物足りないような気がする/
博士ならもうならなくてってもいいんです/寒月は国へ帰って結婚していた/どうせ夫婦なんてものは闇の中で鉢合せするようなものだ、鉢合せしないでも済むところをわざわざ鉢合せるんだから余計な事さ、それなら誰と誰の鉢が合ったって構いっこないよ/(金田の方へ)いいえ断る訳がありません、私の方でくれとも貰いたいとも先方へ申し込んだ事はありませんから黙っていれば沢山です
(4)文明の果ての自殺クラブ
主人・独仙・迷亭・寒月・東風
人から金品を奪うのが掏摸・泥棒・強盗だが、人から心を奪うものが探偵である/僕の解釈によると当世人の探偵的傾向は全く個人の自覚心の強過ぎるのが原因になっている/泥棒は捕まるか見付かるかという心配が念頭を離れる事がない~探偵は人の目を掠めて自分だけうまい事をしようという商売である~いずれも自覚心が強くならざるを得ない/一挙手一投足も自然天然とは出来ない~瞬時も自己を忘れる事が出来ない~行為言動が人工的にコセつくばかり~己れの損得ばかり考え続けて死ぬまで一刻の安心も得ない/
二十世紀の人間はたいてい探偵のようになる傾向がある/二六時中己れという意識を以て充満しているから二六時中太平の時はない/天下に何が薬だといって己れを忘れるより薬な事はない/印度の王族の馬鈴薯手掴み事件~英国の下士官フィンガーボール事件~カーライル着座事件/
死ぬ事は苦しい、しかし死ぬ事が出来なければなお苦しい/主人の人類皆自殺論/自殺できない人は巡査が撲殺して歩く/月賦販売のよる詐欺的金儲け論/しかし親子兄弟の離れたる今日もう離れるものはないわけだから最後の方案として夫婦が分れることになる/東風「先生私はその説には全然反対です、世の中に何が尊いといって愛と美ほど尊いものはない」/「芸術だって夫婦と同じ運命に帰着するのさ、個性の発展というのは個性の自由という意味だろう、個性の自由という意味は己れは己れ人は人という意味だろう、その芸術なんか存在出来るわけがない」/昔は孔子がたった一人だったから孔子も幅を利かしたのだが今は孔子が幾人もいる/吾人は自由を得た、自由を得た結果不自由を感じて困っている
(5)最後の事件
主人・迷亭・独仙・寒月・東風・細君・多々良三平
古代ギリシャの女の悪口/多々良三平来訪/多々良三平は金田富子と婚約したという/寒月は自分のことを「多妻主義ではないが肉食論者だ」という/多々良三平は前祝いにビールを持参、皆で飲む/吾輩も残ったビールを舐めて陶然となる/つい油断して夏に烏が来て行水をしていた大きな甕の中に落ちる/「もうよそう、勝手にするがいい、がりがりはこれぎり御免被るよ」と前足も後足も頭も尾も自然の力に任せて抵抗しない事にした(完)