418.『猫』中編目次――猫の文明論
第6篇 夏来たる。太平の逸民再び
(1)迷亭ざる蕎麦事件
主人・迷亭・細君・寒月
(猫が)気楽でよければ(猫に)なるがいい、そんなにこせこせしてくれと誰も頼んだわけでもなかろう/迷亭来たる/風呂場で水をかぶる/屋根瓦目玉焼事件/ヘラクレスの牛事件/主人はまだ昼寝をしている/何のことはない毎日少しずつ死んでみるようなもの/迷亭の自慢話~パナマ帽子~万能鋏/迷亭出前笊蕎麦事件/寒月来たる/博士論文のために毎日珠を磨いている/寒月は博士論文は十年以上かかるという/それを数日前に金田に説明しに行ったというが、細君によると金田一家は先月から大磯へ避暑に行っているはずという~迷亭は霊の交換であると判定する/迷亭の失恋事件~越後の蛇飯事件
(2)四人の詩人俳人
主人・迷亭・細君・寒月・東風
迷亭は猿轡でも嵌められないうちは到底黙っていることが出来ないたち/迷亭の話~立町老梅旅館の下女に突然求婚して相手にされず/「俺がなんで重い」「重いじゃありませんか」/人売り事件/古代ギリシャの女医アグノディケ/ええ大概のことは知っていますよ、知らないのは自分の馬鹿なことくらいです、しかしそれも薄々は知っています/東風来たる/寒月の俳劇「女に惚れる烏」/東風の富子に捧ぐ新体詩/主人曰く「東風さん、この富子というのは本当に存在している婦人なのですか」/東風は金田家に寄ったが先月から大磯へ避暑に行って留守だった/東風の友人送籍が『一夜』を書いた~主意を糺したが本人も分からない~主人「妙な男ですね」~迷亭「馬鹿だよ」/主人の新体詩「大和魂」/東風が富子に近づく理由は詩を書くためであるという「昔から婦人に親友のないもので立派な詩をかいたものはいない」
第7篇 猫の文明論
(1)猫の大気焔
(登場人物なし)
海水浴の効用~しかし西洋から伝播したものであればペストと同じ/魚は一匹も病気をしない/蟷螂狩り/蝉取り~蝉の小便は敵の不意に出る方便だから主人の羅甸語と同じ/松滑り(木登り)/垣根巡り/隣家からやってきた三羽の烏に馬鹿にされる/
英国裸婦像着衣事件/人間は服装の動物である~北欧は寒い~裸でいる欧州人は獣である~裸体画は美しい獣に過ぎない/肩腕を露わにする西洋婦人の礼服は理屈に反している/それほど裸体がいいものなら娘を裸にしてついでに自分も裸になって上野公園を散歩でもするがいい、できない? 出来ないのではない、西洋人がやらないから自分もやらないのだろう/猫の明治文化論/服装の文明論~皆勝ちたい勝ちたい~おれは手前じゃないぞ~人間は平等を嫌う~元の公平な時代に帰るのは狂気の沙汰である~もし帰ったとしても翌日からすぐに別の競争が始まる~化け物の競争である
(2)銭湯事件
銭湯の客たち・主人・細君
銭湯見学/人間は悪い事さえしなけりゃあ百二十までは生きるもんだからね/浴槽を見渡すと左の隅に圧しつけられて苦沙弥先生が真赤になってすくんでいる/和唐内はやっぱり清和源氏さ、なんでも義経が蝦夷から満洲へ渡った時に…/「もっと下がれ、おれの小桶に湯が這入っていかん」「何だ馬鹿野郎、人の桶へ汚い水をぴちゃぴちゃ跳ねかす奴があるか」/主人は好んで病気をして喜んでいるけれど、死ぬのは大嫌いである、死なない程度に病気という一種の贅沢がしていたいのである/うめろうめろ、熱い熱い/
主人の夕食/今鳴いた「にゃあ」という声は感投詞か副詞か知ってるか/その「はい」は感投詞か副詞かどっちだ/「今夜は中々あがるのね、もう大分赤くなっていらっしゃいますよ」「飲むとも、お前世界で一番長い字を知ってるか」/それじゃ道楽は追って金が這入り次第やる事にして、今夜はこれでやめよう
第8篇 落雲館事件
(1)落雲館事件
主人・落雲館の生徒
庭の空地/桐の俎下駄事件(桐を生やして銭なし)/駱駝と犬の喧嘩/主人は落雲館の生徒にからかわれているようである/主人が後架に入ると生徒が四ツ目垣を越えてやってくる/亀を掴んだ鷹と禿頭のイスキラスが頓死した逸話/
虎になった夢/「ぬすっとう!」主人が庭に入ったボールを拾いに来る中学生を追いかける/主人の抗議は龍頭蛇尾/倫理の教師の公徳についての講義は主人を嬉しがらせる/しかし落雲館生徒のベースボールの練習は主人にとっては戦場/貴様らはぬすっとうか/いやそういう事が分かればよろしいです、球はいくらお投げになっても差支えないです、表からきてちょっと断わって下されば構いません/
(2)鈴木藤十郎再来訪
金田・鈴木藤十郎・主人・落雲館の生徒・甘木医師・八木独仙
金田と鈴木藤十郎の立ち話/落雲館事件は金田の使嗾であった/鈴木藤十郎様子を見に来る/生徒が何遍もボールを取らせてくれと玄関に来る/人間は角があると世の中を転がって行くのが骨が折れて損だよ、丸い物はごろごろどこへでも苦なしに行けるが四角なものはころがるに骨が折れるばかりじゃない、転がるたびに角がすれて痛いものだ/どうせ自分一人の世の中じゃなし、そう自分の思うように人はならないさ/
甘木先生来る/催眠術事件/「あけるなら開いてごらんなさい、到底あけないから」「そうですか」と言うが早いか主人は普通の通り両眼を開いていた/八木独仙来たる/主人は独仙には平生の愚痴をこぼす/哲学者独仙の日本文化論/ナポレオンでもアレキサンダーでも勝って満足したものは一人もない/心の落着きは死ぬまで焦っても片付かない/日本の文明は山があって隣国へ行かれなければ山を崩すという考えを起こす代わりに隣国へ行かんでも困らないという工夫をする/いくら自分がえらくても世の中は到底意の如くなるものではない、ただ出来るものは自分の心だけだからね/三つの解決法~①金と衆に従え(鈴木藤十郎)②催眠術で神経を鎮めろ(甘木医師)③消極的の修養で安心を得ろ(八木独仙)/主人は独仙に自分の不平の種明かしをされたように感じる
第9篇 省察
(1)手鏡事件と三通の手紙
主人
主人は痘痕面である/疱瘡をせぬうちは玉のような男子であった、浅草の観音様で西洋人が振り返って見たくらい奇麗だった/君西洋人にもあばたがあるかな/主人の書斎机は寝台兼用に出来る大きな机で近所の建具屋に作らせた~主人はその上で昼寝をしていて縁側へ転げ落ちたことがある/瓦をいくら磨いても鏡にならないように、いくら書物を読んでも道はわからぬもの/主人は熱心に手鏡を見ている(あばたを覆い隠すための頭髪・頬をぷっと膨らませる・べっかんこう・あかんべえ・カイゼル髭の調練)/
軍人遺族への義捐金を募る華族からの手紙/裁縫学校の校舎建築の寄付金依頼/巣鴨の天道公平からの理解不能の私信/わからんものをわかったつもりで尊敬するのは昔から愉快なものである
(2)迷亭伯父登場と八木独仙の弟子
主人・迷亭・迷亭の伯父
客があっても誰もいないと主人は取次に出ない/迷亭が静岡の伯父を連れて来訪/「いえ、それでは…どうぞあれへ」「ご謙遜では…恐れますから…どうぞ」「私も…私も…ちょっと伺うはずでありましたところ…何分よろしく」/ちょんまげと鉄扇の伯父は不格好なフロックコートを着て赤十字の総会のために上京した/これは建武時代の鉄で性のいい鉄だから決してそんな虞れはない/伯父は杉原(すい原)へ行くため辞す/迷亭は東洋の学問は心そのものを修養するという独仙の哲学を昔から聞いて知っていた/独仙の鼻の頭を鼠が齧った時、迷亭が舶来の膏薬と偽って飯粒を貼った紙片で誤魔化したことがある/独仙は地震のとき寄宿舎の二階から飛び降りて怪我をしたが、外の者が地震だといって狼狽えているところを自分だけは二階の窓から飛び降りた所に修業の効があらわれて嬉しいと負け惜しみを言った/八木独仙のおかげで二人の狂人が出た~理野陶然は腹膜炎で死んだ~立町老梅は巣鴨の瘋癲病院へ収容されて天道公平という筆名でおかしな手紙ばかり書いている
(3)泥棒と刑事
主人・迷亭・刑事・泥棒
吉田虎蔵刑事巡査来訪/主人は同行の泥棒を刑事と間違えて平身低頭する/主人の親爺は昔場末の名主であったから上の者にぴょこぴょこ頭を下げて暮した習慣が因果となって子に酬ったのかも知れない/強情を張って勝ったと思っても当人の相場は下落してしまう~本人は面目を施したつもりで威張っても人が軽蔑して相手にしてくれないだけ~これを豚的幸福という/主人の省察/ことによると自分も少々御座っているかも知れない/瘋癲院に幽閉されているものが普通の人で、院外にあばれているものはかえって気狂である/気狂も孤立している間はどこまでも気狂にされてしまうが、団体となって勢力が出ると健全の人間になってしまうのかも知れない