明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 13

269.『坊っちゃん』聖典発掘(4)――生原稿116年目の真実(つづき) いらぬことだが最後に両者を直接比べてみよう。萩野の婆さんの会話の文章を順に比較して、虚子の加筆を経たと思われる表現を(漱石が自分で直したのかも知れないが)「現」、漱石のオリ…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 12

268.『坊っちゃん』聖典発掘(3)――生原稿116年目の真実 では前項までの坊っちゃんと萩野の婆さんの会話シーンの、赤字で示した虚子の添削部分を取り去って、あるいは一部漱石の書いた(消した)部分を(目を凝らして)復元して、漱石のオリジナル原稿を…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 11

267.『坊っちゃん』聖典発掘(2)――松山弁の呪縛(つづき) 『坊っちゃん』で有名になったのは中学校生徒の発する松山弁の方であろうが、授業やおなじみのバッタ事件のくだりに虚子の手はほとんど入っていない。これはエピソードが半ば坊っちゃんの口で語ら…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 10

266.『坊っちゃん』聖典発掘(1)――松山弁の呪縛 ここで趣向を変えて、せっかく集英社版『直筆で読む「坊っちゃん」』が出版されているのだから、虚子が書き加えたとされる松山弁絡みの部分を取り去った、漱石の書いたままの「文章」を復元してみたい。(「…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 9

265.『坊っちゃん』のカレンダー(4)――もうひとつのカレンダー 滑稽小説『坊っちゃん』に自分の人生を(勝手に)結びつけられては、漱石もさぞ迷惑であろうが、チャプリンの映画の目立たないギャクに、チャプリンの幼少期の悲劇が感じ取られることもあるの…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 8

264.『坊っちゃん』のカレンダー(3)――結末の謎 ところで書出しの1行が漱石のすべてを表わすという議論の当否はともかくとして、『坊っちゃん』末尾の一節もまた、漱石にとっては様々に考えた末の、まさに掉尾を飾るに相応しい名文ではなかろうか。 汽船…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 7

263.『坊っちゃん』のカレンダー(2)――23歳の始まり 「さあ君はそう率直だから、まだ経験に乏しいと云うんですがね……」「どうせ経験には乏しい筈です。履歴書にもかいときましたが二十三年四ヶ月ですから」「さ、そこで思わぬ辺から乗ぜられる事があるん…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 6

262.『坊っちゃん』のカレンダー(1)――充実の秋 坊っちゃんの年(23歳)の話が出たからには、本ブログ恒例の、暦の検証がなされないわけには行くまい。『坊っちゃん』のカレンダーは、小説が進行するに従って徐々に確定していくのであるが、後付けにせよ…

漱石「最後の挨拶」坊っちゃん篇 5

261.『坊っちゃん』日本で一番有名な小説(5)――日本で一番有名な下女 質屋の倅勘太郎のおかげで余計なことまで書いてしまったが、本来一番始めに来ておかしくない家族の紹介が、そんな与太話の後塵を拝することになった。漱石にとって家族というものの位置…