明石吟平の漱石ブログ

漱石文学がなぜ読まれ続けるのか。その謎解きに挑む。

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

漱石「最後の挨拶」行人篇 5

172.『友達』(5)――何のための新聞切り抜き 出版された自分の本はまず読み返すことのなかった漱石だが、新聞に掲載された小説は丁寧に切り抜きを作って、校正の筆を入れていたこともあったようである。『行人』も、原稿は散逸しでいる(震災で焼失か)が、…

漱石「最後の挨拶」行人篇 4

171.『友達』(4)――失敗するほど神に近づく さて冒頭の二郎失言3連発であるが、それに関連して、裏を返すような、または輪をかけるような、いくつかの記述が槍り玉に挙がる。①「なに日が射す為じゃない。年が年中懸け通しだから、糊の具合でああなるんで…

漱石「最後の挨拶」行人篇 3

170.『友達』(3)――漱石開始あるいは漱石の相対性理論 梅田の停車場を下りるや否や自分は母から云い付けられた通り、すぐ俥を雇って岡田の家に馳けさせた。岡田は母方の遠縁に当る男であった。自分は彼が果して母の何に当るかを知らずに唯疎い親類とばかり…

漱石「最後の挨拶」行人篇 2

169.『友達』(2)――原初に失敗ありき 二郎の失言群にはかなりのボリュームの導入部がある。 「①好い奥さんになったね。あれなら僕が貰やよかった」「冗談いっちゃ不可ない」と云って岡田は一層大きな声を出して笑った。やがて少し真面目になって、「だって…

漱石「最後の挨拶」行人篇 1

168.『友達』(1)――汚な作りの高麗屋 本ブログも『彼岸過迄』を了えて、いよいよ『行人』である。 さて書き間違い・言い間違いは誰にもあることで、多くの場合それは取り上げるまでもない瑣事であろうが、漱石に限っては少し異なる意味合いを持つように思…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 45

167.『彼岸過迄』 ブログ総目次 彼岸過迄篇1 123. 誰でもおかしな文章を書く(1)――徳田秋声の場合漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 1 - 明石吟平の漱石ブログ 彼岸過迄篇2 124. 誰でもおかしな文章を書く(2)――川端康成の場合漱石「最後の挨拶」彼岸過迄…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 44

166.『彼岸過迄』総目次(2)――『雨の降る日』『須永の話』『松本の話』『結末』 『雨の降る日』(全8回)全1章 雨の降る日(全8回) 1回 種明かし~敬太郎の就職が決まる2回 千代子の懺悔3回 宵子は千代子の宝物4回 悲劇5回 お通夜6回 葬儀7回 …

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 43

165.『彼岸過迄』総目次(1)――『風呂の後』『停留所』『報告』 『風呂の後』(全12回)第1章 田川敬太郎の冒険(全5回) 1回 敬太郎ビールを飲む2回 銭湯における敬太郎と森本3回 森本の冒険譚4回 田川の蛸狩5回 新アラビア物語第2章 森本の話(…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 42

164.『松本の話』(6)――関西そして結末 12回 最後の手紙 最後の手紙も明石から出されたものであった。芸者が舟で沖へ出た客に向かって阿呆と叫んだのは、明石の海浜でのことであった。漱石は1節ごとに、「(午前七時半)(午前十時)(午前十一時)」と…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 41

163.『松本の話』(5)――旅行が人を改良する 第3章 旅の手紙(全5回)8回 市蔵の不安は旅行によって和らぐのか、それとも 松本は市蔵の不安感を鎮めることが出来ない。高等遊民は世の中の役には立たないのである。それでも松本は姉も市蔵も大丈夫である…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 40

162.『松本の話』(4)――功徳を施すとは何ぞ 7回 善行三部作もしくは不思議三部作 此会見は僕にとって美くしい経験の一つであった。双方で腹蔵なく凡てを打ち明け合う事が出来たという点に於て、いまだに僕の貧しい過去を飾っている。相手の市蔵から見ても…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 39

161.『松本の話』(3)――真っ白な腹の中 第2章 暴露(全3回)5回 何事も秘密には出来ない正直な性格 是は単に僕の一族内の事で、君とは全く利害の交渉を有たない話だから、君が市蔵のために折角心配して呉れた親切に対する、前からの行掛さえなければ、…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 38

160.『松本の話』(2)――後出しジャンケン 第1章 叔父と甥の対決(全4回) 1回 息子が実業向きでないのは叔父のせい 夫から市蔵と千代子の間が何うなったか僕は知らない。別に何うにもならないんだろう。少なくとも傍で見ていると、二人の関係は昔から今…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 37

159.『松本の話』(1)――市蔵はいつ知ったか いよいよ最終話『松本の話』である。まず最初に外形的な問題から考えてみたい。松本が須永に出生の秘密を打ち明けたのはいつのことか。須永はいつそれを知ったかという問題である。 その前に、この小話で松本が…

漱石「最後の挨拶」彼岸過迄篇 36

158.『須永の話』(14)――女が亢奮すると男は冷静になる 第6章 破裂(全4回)32回「旦那様も島田が好きだと屹度仰しゃいますよ」 「昨夕好く寝られなかったんでしょう」 僕は千代子の此言葉に対して答うべき術を知らなかった。実を云うと、昂然として…